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第9話

頭隠して尻隠さず、文字通りの姿で下半身を晒したままの俺の尻に、肌触りの良いタオルのような物が被さって。 「タクは真面目で寂しがり屋だから、女性を相手にする時、様々なことを頭の中で考えてしまうのだろうけれど。キミはね、自然体のままの方が魅力的だと思う」 落ちついたリョウさんの声が、どんどん俺から遠のいていく気がするけれど。顔を上げたら、リョウさんの表情をみたら、俺は涙を我慢出来そうにないのに。 「男の俺に言われても説得力がないかもしれないな、俺も良い大人とは言えないから。バツがついた男の意見を真剣に聞いてくれて嬉しかった、タクだから会ってみたいと思えたのに…これで最後だと思うと、辛いな」 大きくて深い溜め息の後、聞きたくない言葉が続いて。俺はバッと顔を上げると、思いの外近くにいたリョウさんに勢い良く抱き着いていた。 「最後、とかっ…言わないで、ください」 リョウさんの首に両腕を回して、縋るような思いで俺から繋ぎ止めた相手。今までの人生で、俺の前から去っていった彼女には抱かなかった想い。 可愛いとか、綺麗とか、ヤりたいとか。 そういったことじゃなく、心から離れたくないと思える相手に俺は今日初めて出逢うことが出来たのに。 「リョウさんは、俺にとって大切な人です。俺は、リョウさんに会えて嬉しかったんです…今も、俺はリョウさんになら触れていたいと素直に思えるから」 「タク、キミは…」 「リョウさんは男で、俺はゲイじゃねぇし、リョウさんだって抱くなら女の子がいいんだって分かってます。でも、俺…俺はッ、ん…っ!?」 リョウさんに想いを伝えることに必死になり過ぎて、俺は自分でも何が言いたいのかよく理解出来ないままだったが。気が付くと、俺の唇にはリョウさんの柔らかな唇が重なっていて。 「…これでも、キミは俺が嫌じゃないと思えるかい?」 触れ合った唇が徐々に離れ、俺を抱き締めそう問い掛けてきたリョウさんの声は少しだけ掠れていた。 「嫌じゃない…というより、なんか幸せッス」 久しぶりのキスだからじゃない、性欲が爆発した後だからじゃない。リョウさんだから、俺は幸せだと思うことが出来るのだと。 俺は、再び尻をさらけ出しながらも。 自分の言動が信じられなくて、けれど、信じられない今があまりにもおかしくて、愛おしくて…俺はひとり、リョウさんの耳元で頬を緩ませていく。

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