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第8話
…気持ちよくて、おかしくなりそうだ。
正確に言えば、俺はもうおかしくなっているんだと思う。今日会ったばかりの男に性器を握られ喘いでいるなんて、おかしい以外の言葉が見つからないのに。
「リョ、さ…ぁ、もッ…イっ!!」
イきそうで、イきたくて、どうしようもなくなって。俺がおかしいことは重々承知で、俺はリョウさんの肩に凭れ呆気なく射精してしまったのだ。
なんとも心地良い感覚が身体中を巡った後、音のない室内で優しい声が響いていくけれど。
「タク、気持ち良かっ…」
「ごめんなさいッ!!」
リョウさんの言葉に謝罪を被せ、我に返った俺は、ひと仕事終えた息子を隠すことすら忘れてベッドの上で土下座する。
「俺のことは、気にしなくていいと言ったろう?」
きっと、たぶん、おそらく、いや、絶対。
リョウさんには気色悪い思いをさせてしまったんだと、ふかふかなベッドに深々と頭を沈めた俺は、半泣き状態で顔を上げることが出来ないのに。
「顔を上げて、大丈夫だから。タクが良かったなら、俺はそれで充分だよ」
俺から飛び出していった欲の塊は、リョウさんの手の中に受け止められたままで。怒っている感じが全くしないリョウさんの声と、ティッシュが擦れる音が聴こえて俺の耳は真っ赤に染まっていく。
「でもっ、こんな…」
童貞男の俺がいつまで経っても女の子を抱けないからって、リョウさんに抜いてもらうのは話がおかしすぎる。快楽の後に待っていた後悔は、リョウさんの優しさに触れても薄れてはくれないから。
なかなか顔を上げようとしない俺の頭の上に、乱れた俺の髪を掬うように撫でていく手がふわりと重なった。
「弱ったな…俺も本当は、キミにこんなことするつもりじゃなかったんだけれど。キミに触れても俺は気持ち悪いと感じるどころか、タクが可愛く思えて仕方ないよ」
思ってもみない言葉が、頭上から次々と降ってくる。
申し訳なさ全開だった俺の心の中に、リョウさんの声はスっと入り込んで。
「俺みたいなオッサンの戯れに付き合わせしまって悪かったね、タク。キミは何も悪くないから、タクは早く可愛い彼女を見つけて目的を果たせるようにしなきゃな」
名残惜しく、ゆっくり。
俺から離れてしまうリョウさんの手が、俺に告げられた言葉が、酷く痛く感じて…俺はさっきまでとは違う涙を流さぬように、小さく唇を噛んだのだ。
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