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2-2 ラストオブ恋

「……ミナミくん。歯にネギついてる」 「エッうっそやだー恥ずかしい~」 「なんやそれ」 「最近入ってきた受付の女の子ごっこです。」 最後の恋…といえば聞こえはいいが、 実際はこんなもんである。 くたくたに疲れた仕事帰りに、ロマンスの欠片もないラーメン屋で、 だらだらだべりながらよれよれのラーメンを啜る。 恋という響きとは程遠い気がするが、一応2人は恋人同士である。 「今のは対真壁課長バージョンでオレには、はあドーモ。で終わるんすよ」 「真壁さんおモテになりはるんやなー」 「なりはるんですう」 口を尖らせるミナミについつい笑ってしまう。 彼の突然始まる身内モノマネはなかなか的を得ていて、そういう所はよく見ているんだなーという感じだ。 それなのに何故ああも自分の身に降りかかることには疎いのか。 「ほくとさんもおモテになりはりそーなのでオレは心配です。」 ミナミはレンゲに口をつけながらもじろりとこちらを見てくる。 そのキャラはなんなんだろうと思いながら袖野は苦笑した。 「んー、ボクはそうでもないんよ?本当いい人だよねーで終わるタイプ?」 「ふうん?」 何故か疑うようにミナミに見上げられ、 なんだか機嫌の悪い猫のようで笑ってしまう。 全く彼は何もわかっていなさそうで、本当に一緒にいてもいいのかと不安になるくらいだ。 「あ。金メダル」 ぼそりとミナミは呟き、ラーメンのスープの中から箸を上げた。 箸の先には彼の申告通り、スープに塗れたメダルのようなものが掴まれていた。 「……なんで?」 「"幸せの味がするスープ"」 「うっそぉ」 そう言いながらミナミはメダルを戻して丼を持ち上げてスープを飲み始めた。 最初は飛び上がるほど驚いていた非日常過ぎる出来事も、最近は慣れつつある自分がいた。 しかしそれでいいのだろうか。 まあでも、いいか。ミナミくんらしくて。 確実にミナミイズムに侵食されつつある脳は疲れも相まって 彼らしさに妙に惚れ直しながらも 行儀など気にせず男らしくスープを飲み干す彼を見つめていた袖野であった...。

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