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4-34 覚えたての感情

「だ…大丈夫ですか?真壁さん…」 「ええ、全然。いい運動になりました」 「……キミらの会社フロント企業とかじゃないよな?」 真壁の表情筋は蘇生していたのが嘘のように真顔に戻っている。 「ほら、これでもう絡まれないと思うぞ」 真壁はそう言いながら血みどろのサングラスを渡してきて、ミナミは鼻を啜りながらもそれを受け取った。 「真壁さんのこと絶対怒らせんようにしとこ…」 「……あの…ナナメには内緒にしといてください…」 真壁は少しだけバツが悪そうに小声で呟いている。 「…ごめんなさい…課長……オレの所為で…」 「そう思うんだったら次からはちゃんと話せ。いいな?」 「……はい…」 なんだか二人から同じようなことを言われてしまい、ミナミは眉根を寄せながら頷いた。 「…よし。じゃあ俺は会社戻るから、お前はもう帰れ」 「……え?いいんすか…?」 真壁はミナミから荷物を奪っていった。 「課長ぅぅ…!」 「やめろ」 ミナミは思わず抱きつきたくなってしまったが華麗に避けられてしまう。 「…すみません袖野さん…お騒がせして」 「いや…こちらこそ…なんかすんません…」 「じゃあなミナミ。気を付けて帰れよ」 デキる上司は一人で大荷物を抱え颯爽と帰っていってしまい、ミナミは暫く感動してしまうのだった。 「ほんま真壁さんには頭上がらんわ…」 袖野は頭を抱えていたが、ミナミに向き直ると困ったように微笑んでくれた。 「…どうする?ミナミくん」 いろんな人が、自分のことを考えてくれていて。 ミナミは不意に幸せを感じてしまいながらも、彼の手に触れた。 「…一緒に、いたい……」

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