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第6話
“それでも死ぬな。凛だってお前しか居ないんだぞ”
裕の言葉がぐるぐる頭を回って何度も俺を殴る。どうせ、少ししたら番が出来たって俺じゃない誰かと並んで、笑っているんだ。すぐに目が醒める。自分に暗示するよう頭の中で言葉を繰り返す。凛は好きだ、それでも恋愛的な意味じゃない。違うんだ、直哉は全てを捻じ曲げるように壊れないように頭を抱え蹲った。
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「ぅぁ、ぅっぅぁぁんっり……りんぅ……」
あれから一週間、凛は家に帰ってきていなかった。発情期の怠さも辛さも終わり直哉に襲いかかったのは寂寥感だった。凛を拾う前は全て当たり前の事だったのに凛と二人で過ごす時間に慣れてしまった直哉はこの孤独に耐えられなかった。テレビも付けず一人喉が引き裂けそうなほど直哉は慟哭し床を涙で濡らす。
身体の奥から溢れる感情を知らぬまま喉を揺らす。朝から何も食べず飲んでいない喉は限界でヒリヒリとした痛みを訴える。
子供の頃にも同じように泣いた事があった。寂しくて悲しくて何も分からないままずっと泣いていた。それでも誰も来なくて誰も居なくてひたすらに泣き喚いた。母さん、母さん、成長し切っていない身体と声変わりのしていない高い声を出しながらずっと泣いていた。気がついたら声は出なくて喉は痛くて腫れた目は開かなくて真っ暗な部屋のままベッドに蹲っていた。お腹は空くのに喉は乾くのに、そんな事御構い無しで。
「ぅ……り、りん、いかないぃで……おいてか、ないで……?」
凛はここに居ないというのに一人呟いて返事が無い事にまた目を濡らす。何度叫んでも何度呼んでも応えず自分の声だけが反響してもう居ないとやっと実感する。
「りん……り、んぅぅう……」
凛はもう帰ってこない。その事実だけが頭の中をぐるぐる巡って俺を攻撃する。床に座り込み来ないと言うのに名前を何度も何度も呼びながら涙を流す俺はどれだけ滑稽だろう。自分が招いた結果なのに、自分がそうすると望んだはずなのに、凛が居ない事が堪らなく寂しくて辛い。わかってた筈だ、何度も番になる事を拒めば凛も流石に離れる。親代わりなんて言ったってもう一人で生活できるし、魅力のない俺の所に居ても仕方がないんだ。自分を説得するように納めるように心の中で呟き、涙が流れた。
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