5 / 6

第5話

「っが、ぅぅ……っ、」 ガリガリ抑制剤を噛み砕き、苦味と頭を支配する強烈な薬の匂いで何もかも全て掻き消してしまいたかった。薬は嫌いなのに頭の中の何かを搔き消すものが欲しくて無我夢中で口に運んだ。薬の効果なのかはたまた、ただの思い込みなのか身体の熱が収まったような気がした。 「っ、ぁあ……ぅだって、だって。」 誰に聞かせるでもない言い訳を口に出しては自分の汚さに口を噤んだ。ぼろぼろと机に落ちる涙で薬が溶けていくけれどもう動く気力も回る頭もない。そこそこに高かったんだけどな。そんな他人事に浮かばせてはただただ眺める。 「ぉえぇ……っかはっぇっ」 つい数分前の馬鹿げた行為が俺の頭を殴るように嘔吐衝動を引き連れた。喉元を通る溶けきっていない錠剤が首を締めるように詰まる。凛が離れていってしまったら俺は一人だ。人間のΩなんて誰も相手にしてくれないし、それならこのまま死んでもいいかもしれない。 「……っは、お前何してんだよ!?!?」 「ぃ"っ、ぉえぇぇ……いた、痛いって……」 偶々来てくれたのかはたまた凛の差し金か、裕が現れた。裕の大きな手が背中を叩いてその衝撃で錠剤が喉から滑り出した。もう詰まってないというのにバシバシ裕が叩く。 「お前まだ引きずってるのか。」 「うるさい……凛との年の差考えてみろよ。」 俺を形成するような出来事だ、忘れられるわけがない。俺の母親は捨てられた。綺麗な毛並みを持って美しい人だったのに父親は若い泥棒猫に移った。泥棒猫を番にして解消する必要も無かったのにわざわざ母親を解消し、捨てた。Ωは番を解消されたら次なんてないのに、抜け殻のようになる事を知っていたのに。 童顔だとよく言われるがもう二十代後半だ、それに比べて凛は十代。それに俺は綺麗な毛並みも整った顔もない。それに親代わりだったんだ、すぐにそんな対象じゃなくなるはずだ。

ともだちにシェアしよう!