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~第一章~「プロローグ」

 情報屋として生きていきたいなら仕事をするときはこのお面だけは絶対に外すな。  外したらお前の命がなくなるものだと思え。  そう俺に言ってくれたあの人は、いつもあの人自身がつけていた白狐のお面でまるで俺の顔を隠すように被った。  そのとき初めて、いつもお面で被われていたあの人の素顔を見た。  どうして。  どうして。  なんでそんな泣きそうな顔してるんだよ。  それが三年前の冬、名前の知らないあの人と最後に交わした会話だった。 「そういえば今日は入学式でしたね」  桜が咲く季節、白狐のお面を被っている俺はそんなことを呟いた。  といっても入学式だと思い出したのは、学校の屋上から登校してくる皺のないパリッとした制服を着てくる一年生を見たからだ。 「さて、この中の何人が俺の獲物になることやら」 「相変わらず言うことがえげつねぇな」  フェンスの向こう側、細い隙間に腰を落ち着かせ足を揺らしていた俺は品定めするよう生徒を流し見ていると、背後から聞き慣れた声が聞こえたため振り向いてみる。  と、中学の時からの知り合いで俺の先輩でもある白柳(しろやなぎ)先輩がフェンスの向こう側に立っていた。  俺よりも頭一つ分身長が高く、喧嘩が強く、白色の髪の色が特徴的な先輩だ。  この先輩に出会ったほとんどの女はそのカッコよさに惚れて告白しては玉砕し、ほとんどの男は喧嘩の強さに惚れて弟子にしてもらおうとしては玉砕している。  彼自身、人と関わることがあまり好きではないらしい。 「そうしなきゃ情報屋なんてやっていられないですからね」 「お前、今年も情報屋として学校生活を送るつもりかよ」 「もちろん。俺はこの命が尽きるまでずっと情報屋ですよ、っと……そういえば先輩、ここに来たってことは俺になにか用事ですか?」 「あぁ、そろそろ入学式が始まるってことを伝えにな。その調子ならどうせまた今年もやるんだろ?」  放たれた先輩の言葉に『もちろん』と大きく頷いてからゆったりとした動作で立ち上がっては、すでに人のいない校門を見下ろしながら口元に笑みを浮かべた。 ――――  体育館に辿り着くと、ちょうど校長の長話の真っ最中だった。  あまりにもつまらないハゲ校長の話にすでに眠っている生徒もいる。  体育館の脇でつまらなそうにぼんやりと壇上を眺めていた教員が俺の存在に気がつくと、ぎょっと目を見開いたことがわかった。  そして慌てたように駆け寄ってきたけどすでに遅い。 「先輩、マイクください」 「はいよ」  俺から一歩後ろを歩いていた白柳先輩から放られたマイクを受け取っては、それをオンにしてから口元まで運び音を発する。 「校長先生、すみません。俺からも一言いいですか?」  突然マイクを通して館内に響いた俺の声に、俺と先輩とその存在に気がついた教員以外は驚いたように辺りを見渡し、ようやく俺の存在に気づくと生徒たちはざわざわと騒ぎ出した。 「君、私が話してるのにその態度はなんだね! 退学にされたいのか!」 「できるならどうぞ。校長先生の秘密が明るみになるなってもいいなら、ですが」  校長といえども俺の存在を知らないはずがない。  そして新しくこの学校に入学する一年生の中にも俺の存在を知っているやつはいることだろう。 「おい、もしかしてあれって白狐のシロじゃないか!?」 「なんだよ、その中二病みたいな名前」 「中二病とかバカにしたら殺されるぞ! シロは情報屋なんだよ。狙われたら最後、自分の情報を全て奪われ明るみにされて、死ぬまで追いかけるやつだぞ!」  説明どーも。  と、お礼を言いたいところだが。 「噂のシロはすごいことになってるな」 「俺もビックリですよ」  若干、溜め息混じりに呟いては再びマイクを握る手に力を込め、チラリと校長へ視線を移してみると彼の顔は青ざめ、肩をブルブルと震わせ校長らしからぬ態度を見せていた。 (あれがこの学校を支える校長の姿かよ、ダセェ) 「ま、そういうことなんでもし俺から買いたい情報があったら掲示板に連絡先を載せておくんでお待ちしてます」  お面を被っているから笑みを浮かべてもわからないだろう。  だから俺は生徒たちが怯えることをわかっていながらも、やわらかい口調でそう言葉を続けてから踵を返した。  さて、この中の何人が俺の獲物になるんだろうな。

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