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~第一章~ 第一話「一日目」

 次の日からはいつもの日常、俺『黒滝(くろたき)』の生活が始まる。  朝六時、目覚ましの音で起きた俺は真っ直ぐ起動済みのパソコンの前へと座りメールを開きパスワードを入力する。  するとそこには今まで俺が情報屋として受けたメールや、これから受けるメールが受信されている。  俺の情報屋としての仕事は報酬の先払いが基本だ。  余程簡単な内容じゃない限り(校長は何歳なのか、とか)俺が損してしまう可能性のある後払いは行わない。  と言うのに……。 「先に情報送れってメール多すぎだろ」  小さな溜め息をこぼしながら削除を完了させた俺の動きが、次に開かれたメールによって停止させられる。 『三年の金久保(かねくぼ)の監視を一週間、そしてその間の金久保の動きの報告を頼みたい。報酬は二十万、先払いでどうだ?』  らしくもなく自然と口元が引き釣った笑みを浮かべた。  三年の金久保、俺が知る限りだと一人しかこの学園にいない。  きっと、今この辺りの地域を支配している族の総長の金久保のことだろう。  ソイツを一週間、俺が監視するだって? 「……おもしれぇ。受けてやるよ」  二十万と言う金額に惹かれたわけじゃない。  今この地域一番の族、金久保の情報に惹かれた。  上手くいけば金久保の情報はもちろん、副総長や幹部、族全体の情報を手にいれることができるかもしれない。  今年一番になるであろう大仕事に俺は胸を踊らせながらキーを弾いた。  その後、牛乳にバナナと健康的な朝ご飯を食べ終えた俺は学生鞄を肩に人気のない室内を見渡してから玄関へと向かう。 「行ってきます」  そういつもと同じように放った言葉がいつも通り静かに響いた。  外へ足を踏み出すと心地よい風が、眩しいほどの青空が俺を襲う。  春。  俺はこの季節が好きだ。  始まりがあって、終わりのある季節。  ならいつの季節が嫌いか。  それはもちろん、冬に決まってる。  三年前のあの出来事から俺は冬が嫌いになった。 「クーロちゃん、おっはよー」  聞き慣れた声。  あまり好きではないあだ名。  チャラチャラとした軽い口調。 「はよーさん。今日もお迎えか?」 「もちろん、お姫様を迎えに行くのが王子様の役目でしょ?」  コイツは赤嶺(あかみね)、俺の小学校の頃からの幼馴染みでタレ目に赤い髪が特徴的な男だ。  ずっと一緒にいて中学、高校と来たはずなのにどこをどう間違えたのか、赤嶺はバイになってしまった。  カミングアウトされたのは中学校を卒業する数ヵ月前。 『クロちゃん、俺バイだったみたいなんだぁ』  なんてヘラヘラと笑いながら言われたときは、飲んでいた牛乳を本気で吹き出したものだ。  そしてそんな赤嶺は俺が情報屋だということを知らない。 『白狐のシロ』という名前くらいは知っているかもしれないが、間違っても自分からその話題を振るほど俺は馬鹿ではない。 「誰がお姫様だ、誰が」 「そんなに照れなくていいんだよ? クロちゃんは可愛いんだからー」 「うぜぇ」  相変わらずヘラヘラと、腹ではなにを考えているかわからない笑みを浮かべながら俺の頬を突っつく彼の手を弾いてやるが、未だ彼は笑みを浮かべたままだ。 「クロちゃん、今日はどうする?」 「あー、サボるかな。つかいつもサボってるだろ」 「確かにねー。それでいつも俺がフォローしてるんだよね」 「それについては、感謝してる。今度なんか奢るよ」 「食い物で釣られるほど俺は安くないけどね。まあ、食い物に罪はないからありがたく奢られるけどー」  中学時代から学校をサボることはあったが、高校に入ってからその回数が増えた。  情報を収集したいというのはもちろん、ただサボりたいというのも本当だ。  実際、やることがないときなどは屋上で眠ったりしている。 「んじゃどっか遊びに行くかな」 「クロちゃん、俺はイチゴミルクね」 「はいはい、んじゃな」  小さなあくびをこぼしながら、未だヘラヘラと笑う赤嶺に緩く手を振りながら背を向けては一番近い曲がり角を曲がっては立ちどまる。  誰もいない細道。  どこからも足音が近づいてこないことがわかると、ゆっくりと歩を進めながら肩から下げていた鞄から白狐のお面を取り出す。  かれこれ何年もお世話になっているそのお面で自分自身の顔を被っては、視界が狭くなり気持ちがシロへと切り変わる。 「さて、行きますかね」  この時間帯の金久保の行動は……アイツふらふらしてるからな。  俺もふらふらしてりゃそのうち見つかるだろ。  俺は今、金久保と他の族との喧嘩を眺めていた。  あの後、本当に適当にふらふらと歩いていたら見覚えのある後ろ姿が目にとまったため、近くの塀、そしてそこから木の上へと上ってその行動を見つめていたら喧嘩を吹っかけられていたのだ。  広い肩幅が。  綺麗な金色の短い髪が。  相手の攻撃を避ける動きが。  全てが俺に鳥肌を誘う。  もう少しだけその流れるような動きを見ていたいと思っていても時間は流れてしまうもので、金久保に喧嘩を売った族は全て地面に突っ伏していた。  金久保自身にも、相手の族にも怪我がないところを見ると急所だけを狙ったのだろうか。 (……すげぇな)  俺はなにかあったらいつも逃げているため喧嘩のことはよくわからないが、金久保が強いということはわかった。  まあ、強くなきゃ総長になれないだろうが、並大抵の強さじゃない。  そして強さの中にも美しさがある。  これなら金久保が総長になったというのも頷けるってもんだ。 「おい」  喧嘩が強くて総長で、そして落ち着きがありカッコいい。  きっと金久保も女にモテる部類だろう。 「おい」  さっきから金久保が誰かに話しかけてるみたいだけど一体誰に話しかけてるんだ?  つか、アイツどこ行った? 「おいっつってんだろ、木に上ってるやつ」  驚きのあまり上がりそうになった声を我慢した俺は偉いと思う。  というか、なんで金久保が木の根元にいて俺を見上げてるんだ? 「まさかバレていないとでも思ってたのか」  思ってたよ、この野郎。  とはさすがに言わず、金久保には気づかれないほど小さく溜め息をこぼしては木から塀の上へと移る。  そんな俺の動きを追うように彼の瞳がゆっくりと動く。 「バレたんで言ってしまいますけど俺、情報屋ですんで」 「あ?」 「一週間、金久保さんを監視するんでよろしくお願いします」  塀から金久保の目の前へと飛び降り、お面越しからでもわかるほどの微笑みを浮かべながらそう言葉を続けると目の前の彼はどこか不機嫌そうに目を細め、ゆっくりとした動作で俺の顔へ手を伸ばしてきた。  逃げるのを得意とする俺は俊敏な動きでその手から逃れては、外そうとしていたであろうお面に触れる。  外されていないのはもちろん、少しも動いていないことがわかると思わず安堵してしまう。 「金久保さん、いきなりお面を外そうとするなんて失礼じゃないですか?」 「……俺を監視するっつーお前に言われたくないな」  ごもっとも。 「というか、なんで監視されるのか気にならないんですか?」 「情報屋のやることをいちいち気にしてたらきりがない。白狐のやることなら尚更、な」 『白狐のシロ』は自慢じゃないがこの辺りでも有名だとは思っていた。  が、まさかあの金久保の耳にまで入っているとは、さすがに予想外だった。 「いいんですか? なら俺、金久保さんの後ろついて歩きますよ?」 「勝手にしろ。ついて来れるなら、だけどな」  今まで無表情だった金久保の口角の持ち上げられた意味がわからず、先を歩く彼の背をしばらく見つめては少しだけ距離を置きながらようやく後を追うように歩き出した。 ――――  外見は綺麗なバーの前で俺は立ち止まっていた。  そして目の前には嫌らしい笑みを浮かべている金久保の姿が。 「どうした、入らないのか?」 「入るもなにも、ここ金久保さんの族の溜まり場じゃないですか」 「よくわかってるな」 「入ったら殴られるの目に見えてるんで遠巻きに監視させてもらいますね」  シロとしてのやわらかい微笑みを浮かべながら彼に背を向け歩き出した。  はずだった。  突然、誰かに襟首を掴まれたかと思うと、なぜか自分の体は後ろへ後ろへと引っ張られていく。  首を限界まで背後に捻ってみると、そこには俺の襟首を掴みバーへ入っていこうをしている金久保がいた。 「あの、離して頂けるととても助かるんですが」 「あ? 俺の情報が欲しいんだろ?」  そう言われてしまうと口をつぐみそうになってしまうが、ここは情報屋の腕の見せどころだ。 「金久保賢(まさる)。小学生の頃にヤンチャな父親に無理やり髪を金色に染められ、そのせいで不良に喧嘩を売られて買っていたらいつの間にか族の総長になっていた。嫌いなものは裏切り者と空を飛ぶ虫。好きなものは――……うおっ」  いつの間にか襟首を掴んでいた手が離れていたため言葉を続けながら振り向くと、顔目掛けて振り上げられる金久保の拳にわずかに目を見開いてしまえばらしくもなく声を上げながら一歩、後ろへ下がりその殴りを避ける。  金久保の顔が赤いように見えるのはきっと気のせいではないだろう。  族の総長といえども、照れるときは照れるのか。 「なにそんな恥ずかしがってるんですか。俺だって甘いものは好きです、よっ」  再び振り上げられた拳。  ワンパターンだな、と内心呟きながら先ほどと同じように後ろへ下がろうと足を引いた。  つもりだったのだが、なぜか後ろに下がることができない。  それはきっと俺の背に邪魔をしているものがあるからで。  背から伝わる温かさにそれが人間だということがわかる。  ゆっくりと、首だけを動かして振り向いてみると、そこには赤い髪の持ち主が。 「総長、なに面白いことしてんのー」  赤嶺、どうしてお前がここにいる!  お面を被っている俺が口に出してそう言えるはずもなく、相変わらずのヘラヘラとした笑いを浮かべている彼をどこか呆然とした様子で見つめていると、突然腹部に感じた鈍い痛みに前屈みになってしまう。  足が小刻みに震え出して、頭にまで響くほどの耐えられない痛みに呼吸が乱れて。  チクショウ。  他の族には急所を狙ってたくせに、俺には腹かよ。  つか、今意識飛ばしたら色々とヤバくないか、俺。  でもダメだ。  瞼が、落ちていく。  遠くで声がする。  クロちゃん、クロちゃんって。  あまり好きじゃないこの呼び方をするやつは一人しかいない。 「ん……赤嶺、もう少し寝させてくれ」 「だーめ。早く起きないと、みんな待ってんだから」 「あと、十分だけ」 「クロちゃん、早く起きないとクロちゃんが白狐のシロだってバラしちゃうよー?」  その言葉で一気に眠気の覚めた俺は勢いよく目を開き体を起こす。  視界が広い。  まさか、と内心冷や汗をかきながらそっと自分の顔に触れてみると、被っていたはずのお面がない。 「おっはよー、クロちゃん」  響く、聞き慣れた声にビクリと体が小さく震えた。  恐る恐るといった様子で声の聞こえたほうへ顔を向けてみると、いつも通りヘラヘラと笑っている赤嶺の姿が。  そんな彼から流れるように室内を見渡すが、どうやらここは俺の知らない部屋らしい。  そしてその部屋の隅にある革張りで黒色のソファの上で俺は上半身だけを起こしていた。 「……赤嶺、ここは」 「ここは俺たちの溜まり場。さっきクロちゃんが入りたがらなかったバーって言ったほうがわかりやすいかな?」  笑みも崩さずに赤嶺の口から放たれた言葉に、もうどれくらいの時間が経ってしまったかわからない先ほどの出来事を思い出した。  金久保の族の溜まり場のバーに突然、赤嶺が現れて、そのことに驚いている間に金久保に腹を殴られて気を失ってしまったんだった。  そしてそのとき、俺はお面を被っていたはずだ。 「赤嶺、お前まさか――」 「まさかクロちゃんが白狐のシロだったなんてねー」  聞きたくなかった、それでいて予想していた通りの言葉に思わず頭を抱えたくなった。  赤嶺のことだ。  きっとここで誤魔化そうとしたも全く意味がないだろう。  それほど赤嶺は昔から頭の切れるやつだった。 「バラされたくないでしょ?」 「……なにが欲しいんだよ」  そう問いかけた俺の言葉に、へらへらと笑っていた彼の笑みが深くなった気がした。 「クロ――んーん、シロちゃんには俺たちのチームに入って欲しい」 ―――― 「ということで、情報屋の白狐のシロちゃんでーす」 「おい、俺はソイツがチームに入ること認めてないんだが?」 「みんなシロちゃんと仲良くしてあげてねー」  総長である金久保の言葉はどこへやら、次いで放たれた赤嶺の言葉にバーに集まっていた男たちは頷いたり手を振ってくれたり、『よろしくなー』なんて声をかけてくれる人もいた。  まあ、白狐のシロを快く思わない人からの熱い視線ももちろん感じるけれど。  しかしなあ、今までシロは一人だったのにまさかチームに入る日が来るとは。  ……いや、チームに入っていなかっただけで実際は一人ではなかったな。 「はあ? なに言ってんだよ。白狐のシロを知ってるならわかるだろ、シロは今まで一人で行動してたって」 「わかってるよ。でも、断れないもんねー?」  幼馴染みにこれほどまで苛立ちを感じたのは初めてだった。  例え赤嶺に、大好物のバナナミルクを飲まれたとしても殴りたいとまでは思わなかったというのに。 「……俺のお面、どこにやった?」 「んー? ここにあるけど?」  苛立ちを抑え込みながら自分の命よりも大切なお面を探そうと辺りを見渡すと、聞こえた赤嶺の声に視線を再び彼へ。  いつの間にか彼の手に握られていた白狐のお面に、らしくもなく安堵しながら素早く奪っては、自分の顔を隠すように被る。 「ていうか、今までシロちゃんは一人だったって言ってたけど本当に一人だった?」 「どういうこと、ですか?」 「一人じゃなかったはずだよー。白柳の存在のおかげで」  お面を被り突然、口調の変わったことに反応することもなく、赤嶺の口から放たれた聞き覚えのある名前になにかを考えるように天井を仰いでしまう。  確かに白柳先輩には中学のときから世話になってたな。  お面の下の俺の正体に追究してくることもなく、今までいい関係を築けていたと思う。  そう、白柳先輩は白狐のシロが黒滝だということを知らない。  そしてこれからも教えるつもりはない。  しかし今、俺が考えなければいけないのはこんなことじゃない。 「どうして赤嶺さんが先輩のこと知ってるんですか?」 「シロなのにそんなことも知らないのー?」 「赤嶺さん」 「わ、そんな声出さないでよ。ちゃんとわかってるって。俺たちのチームの情報があまり外にもれないからでしょー」 「……で、どうして知ってるんですか?」  わかってるならいちいち言うなよ、と内心悪態をつき、溜め息がこぼれそうになれば慌ててそれを呑み込みポーカーフェイスを保ちながら言葉を続ける。 「俺たちのチームの仲間だから」  コイツの口から放たれる言葉にいったい何度、驚かされるんだろうか。  その後も色々と話をしたが、チームに入る決定打になったのはやはり白柳先輩のいるからだ。  シロとして昔から世話になってた人がチームにいるのはやはり心強い。  俺の正体を知ってるという意味では赤嶺も心強いが、 (コイツ、なに考えてるか本当にわからないからな……)  俺の隣でヘラヘラと笑顔を振り撒いている赤嶺を横目で見つめた後、白柳先輩の姿を探すように男たちの中に視線を走らせるが、なぜか先輩の姿がない。  そんな俺の様子に気がついたであろう赤嶺が俺に耳打ちをしてきた。 「白柳は人と関わるのあんま好きじゃないみたいでいつも一人でいるんだよね」  納得した。 ――――  心地よい風が吹く屋上。  そういえば白柳先輩と初めて会ったのも屋上だったな、と見覚えのある後ろ姿を見つめながら考える。 「先輩って屋上好きですよね」  閉じられた扉の横のコンクリートの壁に寄り掛かりながら声をかけると、俺の存在に気がついていなかったらしく彼の肩が小さく震えたことがわかった。  それでも彼はこちらに顔を向けることはなく、フェンス越しから街並みを見つめていた。 「お前も好きだよな、屋上」 「そうですね。風が気持ちいいし一般生徒は怖がって屋上に来ないから独占できるし」 「相変わらずだな」  本当に可笑しいらしく、くつくつ笑う先輩に思わず表情を緩めていると、ようやく彼が顔を、体をこちらに向けてきた。  ガシャン、という音を立てながらフェンスに寄りかかった彼の瞳の中に俺の姿が映る。 「シロ、どうしてチームに入った?」 「……もう話伝わってるんですね」  情報の伝わる早さに内心驚きながらもそう言葉を放っては、どういう理由にしようかと違和感のない程度の間を開ける。  開けた間で頭をフル回転させてみた。  当たり前だが赤嶺に正体がバレただなんて言えるはずがない。  それなら、この理由しかないな。 「情報をいただきに来たんです」  嘘はついていない。 「お前、わかってるのか?」 「なにをですか?」 「俺たちのチームで裏切りは絶対に許されない。情報を提供するのだって裏切り行為になる」 「それは知ってますよ。金久保さんが裏切り者を嫌っているからでしょう?」 「お前はっ……やっぱりお前はなにもわかっちゃいないッ!」  突然、声を荒げる姿に、さすがの俺でもポーカーフェイスを保っていられず目を大きく見開いた。  中学のときからずっと冷静沈着だった彼がこんなにも苛立って、それでいて泣きそうな表情を浮かべているのを見て、誰が落ち着いていられるだろうか。  下校する生徒たちの騒ぎ声がやけに耳につく。  もうそんな時間だったのか、とぼんやりとする頭の中でそんなことを考えていた。  長い長い沈黙。  先に口を開いたのは、どうやら落ち着きを取り戻したらしい白柳先輩からだった。 「……昔、俺たちのチームに裏切り者がいたんだ。ソイツはチームに制裁という名の暴力を受けた。ほんっと、あれは今でも思い出したくねぇな」  情報屋の俺でも知らない昔のチーム内での出来事を思い出し彼はなにを思っているのか、クシャリと顔をゆがめてから俯いた。 「……白柳先輩、俺がその人と同じ失敗を繰り返すと?」  その問いに返事はなかった。  それだけでそれが肯定だということがわかる。  どうやら心配してくれている先輩の様子に、気づかれないほど薄く口元に笑みを浮かべてはゆっくりと彼へ歩み寄り、その隣へと立つ。 「先輩、情報屋が最高の情報を奪って死ぬって素敵だと思いませんか?」 「お前――、……っごめんな」  言いかけた言葉を続けることなく、なぜか謝罪した先輩に思わず小首を傾げてしまうと、俯いたままの彼の大きな手のひらが俺の頭を乱暴に撫でた。

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