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~第二章~ 第一話「赤嶺 龍太郎」 1

「クロちゃん!」  言葉にならない声を上げながら俺たちに背を向けたクロちゃんのあだ名を口にするが、彼は立ち止まることもなく病室から去っていった。  その直後、入れ代わるように医師たちが病室に足を踏み入れ元白狐のシロ――俺たちの総長に声をかけている。  総長が目を覚ましてくれたのは嬉しい。  けど、総長はさっきクロちゃんになんて言ったっけ? 「……『お前の知り合いか?』」  どうやら呟いた声が聞こえたみたいだ。  驚いたようにとびらへ顔を向けていた総長が俺を見た。 「アイツ、赤嶺の知り合いなんだろ?」 「……総長だって知ってるっしょ?」 「いや、俺は初めて見た」  らしくもなく頭を抱えたくなった。  クロちゃんを初めて見たって?  それは、なんだ。  クロちゃんのことを忘れたってこと?  あんなに大事にしてたのに?  クロちゃんのために三年間も眠ってたのに? 「笑えない」 「赤嶺?」 「ん、なんでもない。白柳と金久保に連絡しとくねぇ」  誤魔化すようにヘラリとしたいつもの笑みを浮かべながら総長に声をかけると、『頼む』と短く返したあと開いていた目を閉じた。  三年間も眠ってたんだ。  疲れが溜まってても仕方がない。  そんな彼から背を向けた俺は、これからのことに不安を感じながら病室を後にした。

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