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 雨はまだ降り続いていた。  雨の日はクロちゃんと相合い傘ができるから嫌いじゃない。  でも今日の雨は大嫌いだ。 「クロちゃん」  もしこの空のように泣いているなら抱きしめてあげたい。  ごめんねって、あのときの総長への制裁をとめてあげられなかった俺を責めてって言ってあげたい。  なんて、そんなことをして総長の記憶が戻るのならいくらだって言ってあげるのに。 「赤嶺」  しばらく雨の降り続いている曇り空を見上げていると、聞き覚えのある声が聞こえそちらへ顔を向けてみる。  走ってきたのだろう、肩で息をしている白柳が傘を閉じている最中だった。 「……目を覚ましたって本当か?」 「嘘ついたって仕方ないっしょ? あ、でも会うつもりなら注意したほうがいいかもー」  傘を濡らしていた雨を弾きながら俺の横をすり抜けた彼から再び曇り空へ顔を向け、そう言葉を続けると離れつつあった足音がやんだ。  空を見上げているせいで姿は見えないけれど、なんとなく背中に視線を感じる気がする。  未だに信じられない。  信じられないし言いたくない。  けれど伝えなきゃいけない。 「総長にクロちゃんの話題はNGだよ」 「……どういうことだ?」 「総長さ、クロちゃんのこと忘れてるみたいなんだよねぇ。ま、会えばわかるだろうけど」  自然と口元に笑みを浮かべながら振り返ると、すでにそこに白柳の姿はなかった。  クロちゃんの話題はNGと伝えたけれど、果たして守ってくれるかどうか。  もし俺が白柳の立場だったら、 「きっと聞いちゃうんだろうなぁ」  それだけあの人の記憶からクロちゃんという人間がいなくなってしまうことが信じられないんだろう。  そこまで考え短く息を吐き出しては、きっと言い争いをしているであろう総長と白柳のいる病院をあとにした。

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