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 今日が退院予定の金久保が入院している病院に辿り着いた。  傘を持っていなかったせいで全身濡れたままだけれど、優しい受付の人からタオルをもらったからまあいいか。  濡れていた髪をタオルで拭いつつ金久保がいるであろう部屋へ足を向かわせていると突然、背後から名前を呼ばれたため振り向いてみると、まるで野球部に所属しているかのような坊主頭の男が俺を見ていた。  俺の記憶力はいいほうだけれどあの男は誰だったかな、どこかで見たような気はするけど。 「どうしたんだよ。髪ないから誰かわからないって?」 「……まさか、元総長?」  昨日は包帯を巻いていたから気付かなかったけど、まさか坊主になっていたとは。  正直、似合いすぎて笑えてくる。  全く笑える状況じゃないというのに。 「元総長ってなんだ、元って。やっぱまだ怒ってんのか」  そう苦笑いを浮かべる金久保へ緩く首を横に振りながら、手にしていたタオルを首へかけては彼へと歩み寄る。  私服を着ているということは無事、退院できたんだろう。  もし異常が見つかったら、と気が気じゃなかったから正直安心した。  なんてことは絶対に誰にも、クロちゃんにだって言えないけれど。 「総長が目を覚ましたからねぇ。だから金久保は元総長」  空いていたソファへ腰を落ち着かせた金久保の動きを眺めながら放った言葉に、彼は面白いほどに目を大きく見開き俺の顔を見た。  そんな彼に同じ言葉をもう一度告げると、わずかに眉尻を下げどこか切なそうな、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべた。  なぜそんな表情を浮かべるのか、わからないし聞くつもりもない。  だってその表情がすぐに疑惑の色に染まるとわかっているから。 「黒滝は知ってんのか?」 「もちろん知ってるよー。走っていなくなっちゃったけど」 「……そんなに嬉しかったのか」 「だったらよかったんだけどねぇ」  そう呟いた声が聞こえたらしく彼は不思議そうに俺を見上げた。  呆然と総長を見つめたあと、言葉にならない声を上げながら病室を走り去ったクロちゃんを思い出すだけで胸が締め付けられる。  今ごろアパートに戻って一人で泣いてるんだろうか。  金久保との話が終わったら寄ってみることにしよう。 「白柳にはもう話したけどさー、……総長、クロちゃんのこと忘れたんだって」 「……は?」  らしくもなく間抜けな声を漏らす金久保を見下ろしてみると予想通りの表情を浮かべていた。  あのときの白柳もこんな顔をしていたんだろうか。 「俺たちのことは覚えてた。けどクロちゃんのことは……詳しいことは、きっと白柳が聞いてくれてる」  金久保も今から行くんでしょ? と尋ねると彼はなにも言わずにソファから立ち上がり、深く息を吐き出すと俺の横を通り病院を出て行った。  そんな彼を見送った俺は水を大量に吸い取ったタオルを付近のゴミ箱へ放り、優しい受付の人からビニール傘を借りてはそれを差し次の目的地を目指した。

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