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もう六時か。
携帯で今の時刻を確認しては制服のポケットへと乱暴気味にねじ込む。
アパートの階段を上がりつつ開いていた傘を閉じては一番手前の部屋、愛しい幼馴染が暮らしている扉の前へ。
考えを整理するよう深く息を吐き出してから扉の横の出っ張り、インターホンを指先で触れては軽く力を込め押し込む。
雨の音とともにわずかに呼び鈴の音が聞こえてくれば中の主が出てくることを祈り待つ。
雨で濡れた傘の先端から水滴がこぼれ、コンクリートの地面を濡らしていく。
隣の部屋の住人が怪訝そうな表情で俺の背中を通り過ぎていく。
雨の音が鬱陶しい。
部屋の中の音が聞こえない。
もしかしてまだ帰ってきていないんだろうか。
階段の上がる音に勢いよくそちらへ顔を向けると、先ほど出て行った隣の部屋の住人だった。
どうやらこの近くのコンビニへ寄ってきたらしく、片手にはコンビニのマークが描かれた袋をぶら下げていた。
そういえば小腹が空いたなと、扉の閉じる音を聞きつつポケットから再び携帯を取り出すとすでに八時を回っていた。
辺りは暗く、街灯で照らされているだけの道を歩いている人はいない。
雨が降り続いているせいもあるんだろう。
「……クロちゃん」
今、なにをしているんだろう。
泣いているんだろうか。
怒っているんだろうか。
「くろ……」
どっちにしろ、きっと頭の整理が付いていないはずだ。
だって俺だってまだ信じられないのだから。
まるで夢を、映画を見ているようだ。
「赤嶺」
数時間前にも聞いた声。
あの人との話は終わったんだろうか。
「黒滝は?」
「閉じこもったままだよ。もしかしたらここにはいないのかもしれないけどねぇ」
言葉を放つ相手に顔を向けることもなく、自嘲気味に喉を一度だけ鳴らしては開かれる気配のない目の前の扉を見つめる。
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