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「……ずっとここにいたんだろ、代わるぞ」
「それは遠慮しとく」
「なにも食ってないんじゃないのか」
それは否定できないし、腹が減っているのは事実だ。
だからといってこの場所から動きたいとは思えない。
それならば、と顔を動かし視線を扉から、わずかに眉間に皺を寄せていた白柳へと移せば緩く笑ってみせる。
「俺は朝までここにいるからさ、なんか食べ物買ってきて欲しいなぁ」
「お前……」
「近くにコンビニあるからそこの唐揚げでもいいし?」
なにか言いたげにしばし俺の顔を見つめていたかと思うと、緩く口角を持ち上げたあと『仕方ねぇな』と呟き俺に背を向けた。
まさか本当にコンビニに行ってきてくれるんだろうか。
そんなことを考えながら離れていく背中を眺めていると、突然振り返った白柳に、金は払えよ、と言われたため思わずポケットを確かめてしまった。
その後、本当にコンビニから唐揚げや飲み物を買ってきてくれた白柳へ支払いを済ませては、その姿を見送ってから扉の横へと座り込んだ。
お茶で喉を潤したあとにまだ温かい唐揚げを頬張ったけれど、味はわからなかった。
────
バイクの音が近付いてくる。
それは階段の下でとまったかと思うと、ガコン、と音を立てながら郵便受けになにかを入れていた。
次いで階段を上がってくる音が聞こえ、『うおっ』なんて驚いているような声も聞こえた。
「新聞配達お疲れぇ。ここのは俺が預かっとくよー」
扉の横に座り込んでいる俺を怪訝そうに見下ろしたかと思うと、特になにかを言うわけでもなく若干雨で濡れた新聞を手渡してくれた。
そして新聞を配達し終えるとバイクに乗り、再び雨の中を去っていった。
辺りはまだ暗い。
けれどこれから徐々に明るくなっていくんだろう。
「だけど、雨はやまない」
手にしたままの湿った新聞を強く握り締めては、深く息を吐き出しながら膝を折り、そこに顔を埋めた。
雨が降り続いて今日で何日目だ。
もう、憂鬱になる。
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