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小学生の頃から俺とクロちゃんはよく遊んでいた。
四年生の秋、あの日も俺はクロちゃんとともに公園にいた。
「龍(りゅう)は木に登るの上手いよな」
そう俺のあだ名を呼ぶクロちゃんを木に登ったまま見下ろすと、どこか羨ましげな表情で俺を見上げていた。
そんなクロちゃんへ手を伸ばすと、彼はわずかに目を開きその手を見つめたあと、表情を緩めその手を取り同じ木に登った。
嬉しそうに、楽しそうに笑いながら地にいたときよりも少しだけ近くなった空を見上げる彼に、きっとこの頃からもう惹かれていたんだろうと思う。
感情が豊かで、真っ直ぐなクロちゃんが好きだった。
「クロくんッ!」
顔面蒼白になりながら木に登っていた俺たちに駆け寄ってきたのは、俺の父親だった。
突然の登場に目を丸くする俺たちをよそに、親父はクロちゃんを抱えそのまま走り去っていった。
どこへ行ってしまったのか、あの頃の俺はわからなかった。
すぐに戻ってくるだろうと、木に登ったまま青空を見上げていた。
空は徐々に雲で覆われていく。
その動きがあまりにも突然で、最終的に大粒の雨を流し出したことに気持ち悪さを覚えた。
慌てて登っていた木から飛び降りれば辺りを見渡し、クロちゃんが戻ってきていないことを確認してから走り出した。
俺の家を通り過ぎ、毎日のように通っている黒色の屋根の家。
その扉の前で男の子が膝を抱えていた。
「クロちゃん」
呟いた声は大粒の雨の打ち付ける音によってかき消された。
たくさん水を吸い込んだスニーカーが、肌に張り付く服が気持ち悪い。
それでも俺は再び歩みを進め、膝に顔を埋めているクロちゃんの前にしゃがみ込んだ。
砂利を進む音が聞こえたのだろう。
顔を上げた彼の目元は赤く、いつも光を宿していた瞳は黒く濁っているように見えた。
「くろ、ちゃん」
顔を濡らしているそれは雨なのか、それとも。
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