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 声をかけたいのに言葉が浮かばず、ただ見つめていると突然クロちゃんは立ち上がった。  そして家の中へ戻ろうとする彼の腕を掴んだのは、俺じゃない。 「やっぱりここにいた」  俺の親父だった。  どこからか走ってきたのか息は乱れ、俺と同じよう雨で全身びしょ濡れになっていた。  二度目の親父の登場だというのにクロちゃんは目を大きく見開いたあと、掴まれた腕を勢いよく引き剥がし逃げるよう家の中へ入って行ってしまった。  次いで聞こえたのは鍵をかける音。  知らない間に俺とクロちゃんに壁ができていた。  さっきまで一緒に遊んでいたのに。 「あー、まずったな……」  なんて呟きのあとに舌打ちが聞こえたかと思うと、親父は閉じられた扉の前に立ち、二度ノックをした。  それでも開かれることのない扉に向かって口を動かしていたが、雨の音のせいで聞き取ることができなかった。  それから数秒、ようやく親父が振り向いたかと思うと、口元に笑みを浮かべたまま微かに眉尻を下げ困ったような表情で、未だにしゃがみ込んでいた俺の体を立ち上がらせた。 「帰るか」  短い沈黙のあと、そう言葉を放った親父は雨の中を再び歩き出し、俺はその後ろ姿から先ほどまで見つめていた家へと視線を戻す。  カーテンは閉じられ玄関の鍵はかけられたまま。  俺の知らないところで一体なにがあったのか、家に帰ったら親父に聞いてみようか。  そう決めてはようやく家から顔を背け、寒さで小さなクシャミをこぼしてから家に向かって歩き出した。

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