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 まだ雨が降っていた。  梅雨の季節でもないのに、いつまで降っているんだろうか。  ビニール傘を手に目的もなく歩いていると、雨の音に混じって俺の名前を呼ぶ声が背後から聞こえたため振り向いてみる。  褐色の肌に濃い緑色の髪は全体的に短く、それでいて左もみあげだけは三つ編みに結んでいる男がこちらを見ていた。  俺のチームの情報屋、宇緑(うろく)だ。  唯一、チームの中で名前を覚えているこの男にはかなり世話になった。 「聞いた聞いた」  傘を差しているというのに近づき肩に腕をまわしてくるこの男を横目で見ると、なにやら楽しそうな笑みを浮かべている。 「黒がいるんだって?」 「……相変わらずの情報の早さだなー」  宇緑の持っている傘と、手にしている傘がぶつかればそこに隙間ができ俺の肩が雨で濡れていく。 「青が部屋に誰かを入れるのって珍しいよな」 『気に入ってんだ?』と続けられた言葉に、肩がさらに濡れていくことも気にせず先ほどの感情を思い出す。  今まで感じたことのない、自分が自分じゃなくなりそうな。  あのまま壁に押し付けたくなったあの感情は。  否定せず、口を閉ざしたままあのときのことを考えていると、突然、視界に宇緑の顔が入ってきた。 「気に入ってるなら、白狐が記憶を取り戻すよりも先に抱いてしまえばいい」 「……なにを」 「気に入ったやつを抱けて、しかも気に入らないやつを絶望させることができる。……チャンスだと思うぜ?」  楽しそうに目を細め俺を見つめる宇緑がようやく肩から腕を離してくれた。  そして数歩、俺に背を向けて歩いたかと思うと振り返り、再び口を開いた。 「白狐を潰してやろうな」  満面の笑顔の男に釣られるよう、俺は薄く微笑んだ。 ────  宇緑と別れた俺はそのまま踵を返しアパートへ戻った。  濡れた傘を開いたまま玄関へと置いては靴を脱ぎリビングへ。  宇緑に絡まれてしまったせいで肩の部分が濡れてしまった紺色のスウェットを脱いだとどうじに、ソファで横になっている人物に気がつく。  眠っているのか、俺がいるのに警戒した様子もなく安心した表情で小さな寝息を立てている。  その寝顔を見ていると、腹の底からどす黒いものが込み上げてくる。  それは先ほど宇緑に煽るようなことを言われたからか。

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