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 メールを削除し、携帯をソファへと放り投げるとどうじに室内にインターホンが鳴り響いた。  来訪者なんて珍しい。  食べ終えたバナナの皮を生ごみへと、起きてから一度も整えていなかった髪を撫で付けてから玄関のとびらを開くと見覚えのある顔がそこにあった。 「赤嶺くん、だっけ」  作られた笑顔。  その笑顔の下ではどんな黒いことを考えているのやら。 「クロちゃんは?」  挨拶もなしに用件だけを口にする相手に、清々しさすら覚える。 「中にいるよ」  笑顔を浮かべたまま、ピクリと眉毛が揺れた。 「会いたい? でも会わせるわけにはいかないな。今はそっとしておいたほうがいいんじゃない?」  「……クロちゃんから話聞いたんだ?」  その言葉に一度、頷いてみせる。 「あの子、泣いてたよ。なのにまた泣かせる気?」  浮かべていた笑顔がどんどん険しくなっていく。  情報屋の話だとなにがあっても感情を表に出さないと聞いていたけど。  黒滝くんのそばにいて変わっていったんだろうか。  ……ますます黒滝くんに興味がわく。 「クロちゃんのそばにあんたがいるってだけでも胸糞悪い」  ひどい言いようだ。 「落ち着いたらすぐ返してもらう」 「そりゃもちろん」 「だから、もしクロちゃんから目を離したらぶっ潰す」  微笑みを消した無表情。  そんな物騒なことを言ってきた彼の目は、嘘をついている目をしていなかった。  黒滝くんから目を離し、行方がわからなくなったらきっと俺は彼のチームに殴られることだろう。  大きな舌打ちをこぼし、ようやく部屋を去っていく赤い髪を見送った俺は再びリビングへと戻る。  だが、リビングの壁に寄りかかり俯いていた人物に気が付いた俺は歩み寄り、その顔を覗き込む。  眉尻を下げ、今にも泣き出しそうな表情だ。  会わせなくてよかったと、心底思う。 「……わざわざ、悪い」 「黒滝くんが気にすることじゃないよ」  そう声をかけると、切な気な目が俺の目と交わる。  その瞬間、ゾクリ、と今まで感じたことのない感情が沸き起こりそうになり慌てて彼から顔を背けた。 「だから、落ち着くまでここにいればいい」  彼の肩を緩く叩いてから『ちょっと散歩してくる』と告げては、黒滝くんの視線を背中に感じながらも俺は部屋を出た。

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