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セミの一週間(シロ×黒滝)

 土を出てからのセミの寿命は一週間だという話を小さい頃に聞いたことがある。  人間はそんなセミの何百倍も日の光を浴びている。  そんな人間からしたらセミの寿命は短いと思える。  でもきっとセミからしたら、そんなに長く生きてなにをするんだ、と思うことだろう。 「俺は、無駄のない人生を過ごせてんのかな」  いつもの屋上、フェンスに両腕を置きながら街並みを見つめていると背後のとびらが開かれたことに気がつく。  それでも俺は振り向かず、近づいてくる足音に耳を傾けていた。 「黒滝」 「……シロ」  名前を呼ばれ、そこで俺はようやく振り向いた。  するとそこには白狐のお面を被った姿のシロが。  ゆっくりとした足取りで隣までやってくると、手を伸ばし俺の頭をクシャリと撫でた。  暑いけれど、彼に触れてもらえるのは嬉しい。 「楽しかったり嬉しかったり、切なかったり悲しかったり。そういう感情を持ってるなら毎日を無駄に過ごしてないと俺は思うな」  ハッ、としたように顔を上げると、シロの顔を隠していたお面がいつの間にか彼の額に。  優しげな瞳が俺を見つめていた。 「それでも無駄に過ごしてるって思うなら、俺がスリルを味わわせてやるから」 「それは、これから先もシロと一緒にいろってことか?」 「……嫌か?」 「まさか。シロと一緒にいることが嫌なんて思うはずがない。それに、シロと一緒にいれるなら絶対に人生を満喫できる」  そう笑ってみせると、頭を撫でてたシロの手が額に触れ、そして頬まで下りてきた。  親指の腹で、まるで猫にするように頬を撫でられるとくすぐったさを感じる。 「黒滝、俺との時間が無駄だったなんて絶対に思わせないからな」 「……思うわけない。むしろシロこそ俺との時間が無駄だったって思うなよ?」 「それこそありえないな」  クツクツと笑いながら顔を寄せてくるシロに、俺はゆっくりと目を閉じた。  セミが一週間を精一杯生きているというのなら、俺もこの命が果てるまで精一杯生きてみようか。  一緒にいてもいいと言ってくれる大切な人のそばで、ずっと。   (終)

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