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ばれんたいん'14(金久保×黒滝)

 同じクラスの女子からバレンタインチョコをもらってしまった。  もちろん全員『義理』と言ってくれた。   ばれんたいん'14  放課後になり、もらった一口サイズのチョコを摘みながら歩いていると、目的のバーのとびらに金久保が寄りかかっていて邪魔で通れない。  携帯に視線を落としていた彼は俺の存在に気がついたのかようやく顔を上げた。  が、彼の視線の先は俺ではない。 「そのチョコ、誰からもらった」  どうやら俺が手にしているチョコを見ていたようだ。 「クラスの女子。てかそこにいたら通れないだろ」  未だとびらの前で邪魔をしている金久保を退かそうとその肩へと触れた瞬間、突然その手首を掴まれとびらへと体を押し付けられた。  ぶつかった背中に痛みが走り、思わず顔をゆがませる。 「もちろんお前から俺にチョコあるんだろ?」 「あるわけないだろっ」  だから早く離せと、押さえ付けられている腕に力を込めてみるがビクともしない。  逆に金久保が顔を寄せてきたため、思わず息を呑む。 「甘い匂いするな」 「そりゃ、チョコ食ってたんだから……」  金久保の鋭い目が俺を捕らえる。  まるで蛇に睨まれた蛙のように動くことができない。  それだというのに金久保はさらに顔を寄せてくる。  お互いの息がかかる距離。  それも徐々に縮まって、唇同士がくっつきそうだ。 「かねく──」  突然、唇を塞がれた。  名前を呼びかけていたため開いていた口の中に金久保の舌がねじ込まれる。  ねっとりと、熱い舌が俺のに絡みつき吸い上げられる感覚に思わず顔が上気する。  しかし、このまま流されてたまるかと口内を暴れている金久保の舌に噛み付いてやると、透明な糸を引きながらようやく顔が離れた。  手のこうで口元を拭いながら睨むように金久保を見上げてみると、口角を上げ意味深な笑みを浮かべている彼と目が合った。 「甘いな。もっと喰わせろよ」 「いや、それ以上はやめとけ」  再び金久保が顔を寄せてきたその瞬間、頭上から聞こえてきた聞き慣れた声に俺たちは一瞬だけ動きをとめたあと、勢いよく顔を持ち上げ声の発生源を確認する。  と、バーの屋根から足、顔を覗かせたシロが俺たちを見下ろしていた。 「……いつから見てた」 「もちろん最初からだな」  いつもと変わらない声色で言葉を放つシロが屋根から俺たちのいる場所へと降り立つ。  相変わらずの白狐のお面をかぶっているため、どんな表情を浮かべているのか俺にはわからない。 「んじゃ黒滝、中に入るか」  バーへのとびらを開き、俺の肩を抱いて中へ入ろうとするシロが思い出したように金久保へと顔を向けた。 「金久保も妬いたりするんだな」  からかうように放たれた言葉に、金久保の顔が少しだけ赤くなったように見えたのはきっと気のせいじゃない。  その証拠に、それを隠すよう手のひらで自身の顔を押さえていた。  そこから先はシロにバー内へと連れて行かれたからわからないけれど、そんなにチョコが欲しいのなら来年はあげようか。  ノンアルコールのカクテルを飲みながらそんなことを考えた。   (終)

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