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風邪引きさん(白柳×黒滝)

  風邪引きさん  突然シロから電話がきたかと思うと、白柳先輩が風邪を引いたそうだ。  スポーツドリンクにゼリーをコンビニで購入すれば白柳先輩のお宅へと足を向かわせる。  インターホンを押して出てきたのはいつものお面をかぶっていないシロだった。  頭を撫でてきたシロへ挨拶をしてから家の中、二階の白柳先輩の部屋へと向かう。  目の前のとびらをノックしてから開き、室内を覗き込んでみると、額にタオルをのせベッドで眠っている白柳先輩がいた。  とびらを閉じ、足音を立てないようゆっくりと近付いてはベッド横へと座り込み、なんとなしに先輩の顔を覗き込んでみる。  体が暑いのか汗をかき、顔は上気している。  普段の先輩と違って、なんだか色っぽさを感じる。  先輩でも風邪を引くんだな、なんてことを考えながらしばらく寝顔を見つめていると、彼のまぶたが小さく揺れた。  かと思うとそのまぶたはゆっくりと開かれ、黒い瞳が俺の姿をとらえた。 「先輩、おはようございます」  頭に響かないようボリュームを抑え声をかけてみるが反応がない。  どうしたのかと、もう一度声をかけようと口を開きかけた瞬間だった。  突然、白柳先輩が体を起こしたため、顔を覗き込んでいた俺の頭と先輩の頭が激突した。  星がまわりそうなほどの衝撃に額を押さえながら先輩へと視線を送ってみると、彼も頭を押さえていた。 「せ、先輩、大丈夫ですか?」 「……大丈夫だ。つか悪い、痛かっただろ」 「いや、俺も大丈夫です」  頭を押さえながら先輩も俺へと視線を送ってくる。  ようやく反応があったことに安心した俺は、ベッドの下に落ちてしまった濡れタオルを拾い冷たい水の入った桶で洗い、絞ってから再び先輩の額へ置こうとするが未だ彼は体を起こしていた。 「先輩、風邪引いてるんですから寝ててくださいよ」 「……いや、その前になんでここにいるのか聞いていいか?」 「シロから先輩が風邪引いたって聞いたからですけど」  早く横になるよう彼の肩を押すと、思っていたよりも簡単に横になってくれた。  かと思うと、なぜか顔を隠し深い溜め息をつかれた。  そんな彼を不思議に思いながら手にしていたタオルを額へと置いてやる。 「……あー、もしかして迷惑だったりしました?」  目が覚めてからの先輩の反応を思い返した俺は、ふと思ったことを口にし尋ねてみる。  すると顔を隠していた彼は目だけを覗かせ、俺を見た。 「変な勘違いすんな。ただ……」 「ただ?」 「……カッコわりぃだろ。風邪なんか引いてるとか」  そりゃ確かに白柳先輩が風邪を引くなんて意外だったけど。 「カッコ悪いなんて思いませんよ。むしろ安心しました」  先輩にしては珍しく、恥ずかしそうに目を伏せる様子に思わず笑みを浮かべながら言葉を返す。  すると俺の言葉を不思議に感じたのか、伏せていた目を持ち上げ視線を合わせてきた。 「先輩ってなんでも完璧ってイメージがあったから、こういう人間らしいとこも知れて嬉しかったんです」 「……完璧とか、お前が勝手に思ってただけだろ」 「それもそうなんですけど」  体勢を整え、再び顔を寄せては先輩の顔を覗き込むように。 「早く風邪治してくださいね。元気な先輩がやっぱり一番好きですから」 「……タラシが」 「え」  その後、持ってきたゼリーを食べてくれた先輩から風邪を移されたのは言うまでもない。   (終)

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