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注ごうか、愛を(金久保×黒滝/死ネタ)

  注ごうか、愛を  なにも見つからなければ次の日には退院できる。  そう言われていたのに、金久保はまだ入院している。  あれからもう一週間が経っただろうか。  俺は今日も金久保の病室にいる。  頭に包帯を巻き、腕には点滴を。  上半身を起こした姿で金久保は真っ白なベッドに潜っている。  学校での、チームでの出来事を話すと金久保は笑いながら返事をしてくれる。  その笑顔を見るたびに、胸が苦しくなって泣きそうになる。  金久保は知らない。  もう退院することができないということを。  あと一ヶ月ほどの命だということを。  いや、もしかしたら俺の態度で勘付いているのかもしれないが。 「黒滝」  俯き、言葉を発さない俺をどう思ったのか、金久保は俺の名前を呼ぶ。  そこでようやく俺は顔を持ち上げ、金久保の姿を視界に入れる。  俺の表情を見た彼は若干、眉尻を下げながら笑ったかと思うと、ベッド脇を叩き座るよう促してきた。  背もたれのない椅子に座っていた俺は腰を持ち上げ、促されるがままベッドへと座ると、彼の腕が俺の腰に巻き付き引き寄せられた。 「……黒滝」  初めて会ったときとは違う、優しい声。 「最後までお前がいてくれたら、俺はそれでいい」  意味深な言葉。  思わず目の奥が熱くなる。 「かね、くぼ。金久保っ」 「なに泣いてんだよ」  笑われてしまった。  俺だって泣くつもりなんかなかったのに、目から熱いものがあふれ出してとまらないんだから仕方がない。  金久保の手のひらが俺の頬を包み込み、涙の伝っている目の下を親指の腹で撫でてきた。  そして近付く彼の唇を、俺は受け入れた。 ────  あれから一週間後、金久保はこの世を去った。  一ヶ月と言われていたのに、本当に突然だった。  初めは実感がわかなかった。  けれど学校帰りに病院に行こうと。  いつものバーで金久保の名前を呼ぼうと。  反応がないとわかっているはずなのに無意識な自分に驚いたとどうじに、胸にぽっかりと穴が開いた。  今まであった日常の中から金久保がいなくなってしまったんだと、実感してしまったときにはもう涙があふれ出していた。  いつものバー、カクテルを片手に流れる涙が膝を濡らしていった。  カクテルの味なんか、わからなかった。  そして今、一つの墓石の前に俺はいる。  黒スーツに、手には花束を。  天気がよく、気持ちのいい風が吹いている。 「俺、金久保と出会えて幸せだったよ」  手にしていた花束を墓石の前へ。  そしてその手で流れるように墓石に触れると、胸が苦しくなる。  言いたかったのに結局言えなかった言葉。  喉まで出かかっているのに言うことができない。  今、言ってしまったら、生きているときに言えなかったことを後悔してしまいそうで。 「金久保……」  大きく深呼吸をしてから気持ちを落ち着け、墓石から手を離した俺は真っ直ぐに墓石を見つめたあと、深く頭を下げた。  シロが倒れたとき、金久保はずっとチームを引っ張っていた。  恨んでくれていいはずなのに、倉庫で殴られていた俺を助けてくれた。  金久保がいてくれたから、こうして俺は元気でいることができる。 「……っありがとう」  声が震え、目の奥が熱くなった。  零れないよう手のこうで強く目元を擦った俺は再び顔を上げた。  その瞬間、強風が俺を襲ったため思わず目を細めると、目の前をなにかが落ちていった。  風を受けながら顔を上げてみると、大量の桜の花びらが。  まるで金久保が返事をしてくれたようで、我慢したはずの涙が頬を伝った。  なあ、金久保。  俺もいつかはそっちにいくから。  そのときに、言えなかったこの気持ちを言うから。  そのときまで、待っていてくれるか。  今度は俺が、あふれるほどの愛を注いでやる。   (終)

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