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記憶にございません(ALL→シロ×黒滝)

  記憶にございません  いつものメンバー、いつものバー、その中に和解した青木葉がいる。  そして俺の隣で黒滝が顔を赤くしながら笑っている。 (……なんでこんなに顔赤いんだ)  不思議に思いながらグラスを手にしたまま黒滝へと顔を近付けてみると、酒くさい。 「黒滝、それなに飲んでるんだ?」 「ん、さっき赤嶺から渡されてさ」 『シロも飲むか?』なんて黄色の液体が入ったグラスを受け取っては、匂いを確認してから喉へと流し込んでみる。  甘ったるい香りが鼻から抜け、アルコール臭さが口の中に残る。 「美味しいよな、それ」 「……ああ、これバナナのカクテルだな」  しかも酒が入ってる。  両手にグラスを手にしたまま黒滝に酒を渡した張本人、赤嶺を横目で見遣ると彼は俺に背を向けながら弟と話をしていた。  なんで変な方向を向いているのかとツッコミを入れられていたが、どうやらこっちを見る気はないらしい。  相変わらずの彼の行動に小さなため息をこぼしてから、中身の残っていた酒を飲み干してから黒滝へと顔を向けた俺の思考は停止してしまう。  黒滝が金久保の膝に座ってキスをしていた。  金久保も突然のことに動けないのか、黒滝にされるがままだ。  顎を掴み口を開かされ、真っ赤な舌が金久保の口内に滑り込む。  そんな異様な光景に唾を飲み込んだのは一体誰か。 「っ、黒滝」  金久保の両腕が黒滝の体にまわされかけたとき、彼はするりとその腕から逃れおぼつかない足のままその隣にいた青木場へと顔を寄せていた。  次から次へと深いキスをしていく黒滝に思わず両手のグラスを落としてしまいそうになったが、なんとかそれをこらえテーブルへと置く。  するとその音が聞こえたのか、奥にいたマスターへと近付いていこうとしていた黒滝が俺を見た。  そして満面の笑みで、駆け足で俺に近付いてきたかと思うとまるで猫のように膝へと乗りかかり胸へとすり寄ってきた。 「……シロ」  甘く名前を呼び、顔を赤く染め瞳を潤ませながら唇を寄せてくる彼の口元を慌てて手のひらで塞いだ。  その瞬間、不満そうにわずかに眉を寄せながら指を甘噛みしてくる黒滝に深いため息がこぼれてしまう。 「黒滝……飢えた狼を何人つくる気だよ」 「飢えたって、なに」 「みんな黒滝のこと抱きたいって。やらしいキスしてくるから」 「でも、シロとしたい」  あぐあぐと指先に噛み付きながら煽るようなことを言う黒滝の耳元へと唇を寄せては、彼にだけ聞こえる声量で言葉を放つ。 「ここで俺にキスしてみんなに抱かれるのと、あとでキスして俺だけに抱かれるの、どっちがいい?」 「……シロは、ずるい」  いつの間にか舐めていたのか、涎を伝わらせながら指から口を離した彼の口元を指腹で拭ってからそれを舐め取る。  そしてそのまま彼の体を抱えながら立ち上がれば、俺たちを見ていたみんなを見渡してから口を開く。 「みんな、悪いな。黒滝が眠いみたいだから家まで送ってくる」 「送り狼になんなよ」  そう言ったのは口元を押さえ、顔を背けたままの俺の弟だ。 「お前じゃあるまいし」  そう言い返してやると、深く眉間にシワを寄せながら睨んできた。  その反応に小さく笑いながら生暖かい風の吹く外へと出ればタクシーをとめ、二人で乗り込む。  その頃にはもう黒滝は夢の中へと落ちていた。 (ズルいのはどっちなんだか)  幸せそうに眠る黒滝を見ていたら俺自身も眠くなってきたため、運転手へ行き先を告げてから寄り添い、目を閉じた。   (終)

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