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痛みすらも快感に(金久保×黒滝)

 口の端が切れているせいであまり大きく口を開くことができない。  そのことに気づいていないのか、目の前の金久保は大きな唐揚げを差し出してきている。   痛みすらも快感に  金久保と付き合うようになって驚いたのは、金久保は料理が上手いということだった。  慣れた手つきでパラパラの炒飯を作ってもらったときは、その美味さに感動したもんだ。  そこから金久保の作る料理にハマっていたんだけれど、さすがに今日はあまり口を開かなくて済むものを食べたい。 「早く口開けよ」 「……あの、悪い。今日は食えない」 「あ?」  機嫌悪そうに眉間に深くしわを寄せながらドスの効いた声をもらす金久保は本当に高校生なのか疑いたくなる。 「別に金久保の飯を食いたくないってわけじゃない。ただ、口切れててあんま開けないんだよ」 「切れてるって?」 「そう、ここ」  眉間にしわを寄せたままの金久保に、切れている口の端を指さしてみせるとなぜか両頬を掴まれた。  なにごとだと金久保の目をじっと見つめていると、ゆっくりとその顔は近づいてくる。 「おい!」  慌てて声を張り上げ、体を離そうとするがその行動を取るよりも先に金久保の乾いた唇が俺のに重なった。  ぬるりと生温かい舌が唇を這ってきたかと思うと、傷口まで舐め上げてきた。  痛みに思わず頬を掴んだままの金久保の手首に触れるが、離れることはない。  むしろ傷口に触れる舌の力が強くなっている気がする。  グリグリと、舌先でいじられるたびに体が震える。 「も、いい加減にっ……」 「ベッド行くぞ」 「はっ?」  突然の言葉の意味を理解するよりも先に、椅子から立ち上がった金久保が俺の体をお姫様抱っこの体勢で抱きかかえた。 「金久保!」 「涙目のお前を見てたら抱きたくなった」  意地悪な表情の金久保に、これはなにを言ってもダメだな、と手のひらで自身の顔を覆いながら大きな溜め息をこぼす。  別に、そういうことは俺も嫌いじゃない。  ただ今からする行為の中で、何度も傷口を攻められるんだと考えると憂鬱な気分になってしまう。 「……ドエスが」 「なにか言ったか?」  まるで壊れ物を扱うように優しくベッドへと下ろす金久保の目は、すでに獣の目をしていた。  全てを見透かすようなその瞳に体を疼かせながら『なにも』と返した俺は、金久保の胸ぐらを掴み引き寄せては痛む口も気にせず噛み付くようなキスをした。   (終)

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