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沢山の声が飛び交う広い教室で、彼はひとり眉根を寄せて目を固く閉ざしていた。
「聖 」
「おわ、びっくりした」
二日酔いでずきずきと痛む額に、ひやりと冷たい物が触れる。
椅子にもたれ掛かっていた聖――志摩聖 は額に触れる物を確かめるため、ゆっくりと瞳を押し上げた。
「真壁(まかべ)じゃん。……何、コレ」
「昨日めちゃめちゃ飲んでたから。二日酔いじゃないかなって」
「わり、助かる」
額に当てられた、よく冷えたスポーツドリンクを目の前に立つ男から受け取る。
やっぱりね、とふわりと微笑む男は真壁大和 。
180cmを越える長身に視力が悪いせいで鋭くなる目つき。
それゆえ、初めて彼を見る者は怯えて距離を取ってしまいがちだ。
だが、その外見にそぐわず実は優しくてゆったりとした性格なのだと、大学生活を共に3ヶ月程過ごしてきて知った。
「……彼女から、連絡あった?」
「あー……」
おずおずと聞いてきた真壁に悪気はないとわかっていながらも、【彼女】の単語に自然と眉間に皺が寄る。
「ない。てゆか、もう彼女じゃねぇし」
「そうなの?」
「おぉ、『アンタ以外にも男なんていくらでもいんのよ!』だと。イテテ」
「うわぁ……大丈夫? ご、ごめん」
「いや、あームカつく」
昨夜ヒステリックに叫んだ"元"彼女の真似をしたために、また痛みを訴えてきた頭に舌打ちをする。
聖が本当は何に苛立っているのかなど聞くまでもなくわかるのに、わざわざ話題を掘り返してしまった自身を胸中で叱咤し、真壁はがくりとうなだれた。
突然俯いた真壁を聖は椅子に座ったまま覗き込む。
背も高いし、よくよく見れば精悍な顔つきをしているというのに……どうにも真壁は自信という物を母親の腹に置いてきたようだ。
申し訳なさを顔全体で表す真壁を見て、聖は吹き出した。
「お前、でかい図体で捨てられた子犬みてぇな顔すんなよ」
「だって、聖、」
「気にすんなって。今から夏だし、暑苦しい中あの女の面倒見なくてよくなったの、実は嬉しいし」
「あの女って聖……」
「いンだよ。しばらく彼女とかいらねぇもん、今年はお前らと遊び倒す。……ありがとな」
立ち上がるとふたりの目線が近くなったものの、聖の身長は170cmと少ししかないため真壁に見下ろされる。
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