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「うーん。あの頃に比べたら随分変わったなぁ」  聖の住まいは相変わらず2階建てのボロアパート。  片手鍋以外何ひとつなかった台所は今やフライパンや調味料が綺麗に並べてあり、真壁仕様となっている。  もちろん、冷蔵庫にも常時色んな食べ物を用意しておりインスタントラーメンは姿を消している。  散らかり放題だった部屋も片付き、洗わないまま積み重なるだけだった洗濯物も洗濯を済まして綺麗にまとめてある。  この様子を見た神谷が一度「真壁は嫁か!」とキレた。  その時はなんとか宥めたのだが、神谷の言いたいこともわかるだけに真壁は軽く息を吐いた。  あまりの生活能力の無さに、つい、面倒を見すぎてしまうのだ。   「ああ見えて神谷は優しいからなー……」  慣れた手つきでフライパンを動かせば、チキンライスが宙を舞う。  今日の晩御飯はオムライスとサラダ、コンソメスープ。  ふわふわ卵のオムライスが聖の好物だと、ともに過ごしたこの数ヶ月で知った。 「悪かったな。神谷と違って優しくなくて」 「!?」 「おわ、危ね!」  突然背後から聞こえてきた声に驚き、フライパンを離してしまった。  晩御飯がサラダとスープのみになってしまう、と思ったと同時に脇から手が伸びていることに気付く。 「あっぶねー……俺のオムライスがダメになる所だった」 「ひ、聖……」 「ビビりすぎだろお前。俺のがびっくりした」 「ごめん、でも今日早くない?」 「そうか?」  フライパンを受け取って時計に視線を移すと、真壁はひゅっと息を吸い込んだ。 「え、もう10時過ぎ!?」 「おう。そんな早くねぇだろ」 「悪い、なんかボーっとしてた」 「別に気にすんなよ」  けらけらと笑い、聖は綺麗に畳まれた洗濯物からボクサーパンツを取り出す。  そしてそれを振り回しながら、真壁の手元のフライパンや調理台に並んだ皿をちらりと見渡した。 「もうちょいかかるよな? 身体くせぇから先に風呂入って大丈夫か?」 「うん、大丈夫だよ」 「へいへーい」  風呂場に向かう聖が横切った時、タバコとカラオケ店独特の匂いがした。  匂いにうるさい聖はバイトから帰るとすぐに風呂に入りたがる。  それを見越して、先に洗濯物を畳んで風呂の用意をする自分は随分と主夫じみてきたな、と真壁は人知れず笑った。

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