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聖がひとり頭を抱えて唸っている頃――真壁と神谷は、学食で睨み合っていた。
「やっぱり納得いかねぇ」
「さっき話はついたでしょ。なんで蒸し返すの」
ため息混じりに肉うどんをすすり上げる真壁の口元をじっと見つめ、神谷もまたカツカレーを頬張った。
咀嚼しながらビシリ、とスプーンを突き付けて言い放つ。
「お前、男同士のなんやかんやがどんなモンかわかってねぇだろ!」と。
「かかっ、神谷! こら、お行儀わわ悪い!!」
スプーンを持つ神谷の手をぺちり、と叩くと同時に顔を真っ赤にして「すみません、すみません」とペコペコ謝っている。
その謝罪を誰に向けているのかなんて、当の真壁にもわかっていない。余計に目立っていることにも気付かずにただひたすら頭を下げ続けた。
「なんだよ、こんくらいで恥ずかしがるんじゃねぇよ」
「ちが、恥ずかしいっていうか、今! ご飯時! なう! まだ昼なの!!」
「ふん、昼からシモ話したらダメとか誰が決めたんだよ。……お前、さ」
スプーンを持ち直すと、今度はカツカレーのカツをザクザクと小さく切ろうとしている。
チラチラと神谷の手元を窺いながら、その整った唇が次に紡ぐ言葉を待っている真壁。
以前、箸の持ち方について言及したところ「お前はおかんか! やかましい!」とつっこまれてからあまり立て続けに注意するのは躊躇してしまうらしい。
うろうろと忙しない真壁の視線を追い掛け、スプーンを持つ手を止めた神谷はするりと言い放った。
「1回、俺で試してみる?」
「……は?」
「だから、コレ」
「コラー! こらぁぁっ!!」
わざわざスプーンを左手に持ち替え、右手でやってみせた卑猥な指の動きに今度こそ真壁は前のめりになり神谷を止めた。
親指を人差し指と中指の間にねじ込む、例のサイン。
「下品!」
「誰も俺たちなんか気にしてねぇって。それより、」
「駄目だよ」
はて、先ほどまで頬を赤らめていた人物とこの男は同じ者か。
つい疑ってしまいたくなるほど表情を一変させた真壁は神谷をじっと見つめた。
いつも押されるばかりだった真壁が、たった一言、表情ひとつで神谷を黙らせている。
その耐え難い事実に、神谷の喉がゴクリと鳴った。
「そういうことは、本当に好きな人とするべきだよ」
まっすぐに見つめ放たれた言葉に、神谷は小さく舌打ちをした。
――好きな人……真壁の言うそれは、聖のことだろう。
その行為は疎か、想いを告げることすらできていないのに。真壁がどんな思いでこの言葉を放ったのかを考えると、胸が痛くなり――神谷はそれ以上蒸し返すのはやめた。
「……悪かったよ」
「ううん、いいんだ。俺のために身体張らなくったっていいんだよ」
ありがとう、と続け、真壁は空になった皿を持って立ち上がった。
「男同士がどうとか以前に……そういうこと、望んでないから。だから、大丈夫」
眉尻を下げた情けない笑みを浮かべ、真壁は爆睡を決め込んでいる聖のためにサンドイッチを買ってやった。
ご丁寧に、カフェオレまでつけてやって。
どこまでも聖に甘い真壁に苛立ちながらも、神谷は大きな背中を追った。
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