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「あれ? 聖は?」
学食から戻った真壁と神谷が目の当たりにしたのは、誰もいない聖の所定の席。
辺りを見回しても聖の姿はもちろん、彼の荷物も一切無くなってしまっている。
「志摩なら帰るって言ってたぞ」
「え?」
お前らによろしく、ってさ。
と近くに座っていた同じゼミの佐野は続け、していたゲームに視線を戻す。
「何で帰っちゃったんだろう聖……あと1個講義残ってるのに」
「んー? 元気なかったからなぁ。具合悪ぃんじゃねぇの?」
「具合!?」
「……ん、お、おぉ」
突然食いついてきた真壁に若干引きつつ、佐野はゲーム画面を見ながら続けた。
「お前ら出てった後、ひとりでうんうん唸ったりボーっとした頭抱えたりしてたんだよ」
「俺らが声かけても聞こえてねぇみたいでさ」
佐野とともにゲームをしている早川も画面を見たまま続け、ふたりは声を揃えて言った。
「「重症だな、アレは」」
「じゅ!?」
真壁を見ることなく告げた二人の目には映っていない。
元々良くはない人相が驚きのため悪化し鬼のように恐ろしい形相になっている真壁の姿など。
「真壁……?」
「頼んだ神谷!」
「はぁ!? おい、真壁!」
物凄い勢いで目の前を駆け抜けていく真壁には、神谷の声などもう届いてはいない。
呼び声に振り返ることもせず、机や学生にぶつかりそうになりながら教室を飛び出して行った。
「……」
「……」
「前から思ってたけどよ、真壁って志摩のことになると熱苦しいよな」
「お前らわかっててやったろ」
漸くゲーム画面から眼を離した佐野と早川の表情はとてつもなく悪く、とてつもなく満足げであった。
『あいつら、どうなるのか気になるじゃん』
早川と佐野が声を揃えてそんな台詞を吐いていることなど知る由もない真壁は走っていた。
聖に対する想いは神谷は疎か早川と、彼と常に一緒にいる佐野にまでバレていた。
そして、誰の目にも明らかだった。
真壁の想いが、均衡を保つことが危ういほど大きくなっていることは。
それを見兼ねてか、それともただの好奇心からか。早川たちにたきつけられた真壁はその思惑通り聖の家の前にいた。
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