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「聖!」  聖のアパートは大学から歩いて15分の距離。  近いとはいえ全力疾走したせいで荒れた呼吸はなかなか落ち着かない。けれど、待ってなどいられなかった。 「聖、大丈夫!?」  うまく呼吸が出来ず、噎せながらドアを叩くが反応がない。  まだ帰っていないのか、それとも――……。 「ッ、聖、」  最悪の状態を思い浮かべ、未だに整わない息をひゅっと飲み込んだ。  聖の家に初めて訪れた時も、彼は台所で力尽き倒れていた。  今の彼が、あの時以上に体調を崩していたらと考えると、汗だくの身体はすうっと冷めていく。 「聖、いないのか? あ、俺鍵持ってたんだっけ! あれ、どこやった? どこだ?」  真っ昼間に人様の玄関口でデカイ男がわたわたと慌てる姿は怪しいとしか言いようがなかった。  だが、世間の目など気にしていられない真壁は必死に鞄を漁る。  が、焦れば焦るほど鍵は鞄の奥深くに潜り込んでいき、なかなか掴むことができない。 「あ、あった!」  漸くピンクの帽子を被ったトナカイを掴んで勢いよく鞄から取り出す。  焦って落ち着きのない指でなんとか鍵穴に鍵を差し込むと、ガチャリと重たい音が響いた。  その音に、僅かながら冷静さを取り戻しドアノブを回す。  ドアを開ければすぐに台所。  いつかのようにそこに聖が倒れていないことを願いながら、ゆっくりとドアを開けた。 「聖……?」  ドアを開いた先にいたのは、当然ながら家の主である聖。  だが、真壁が想像していた姿ではなく腕を組み、しかめっつらで迎えられた。 「なんで来るんだよ」 「あ、ゴメン、勝手に開けて……具合悪いって聞いて心配でさ」 「具合?」 「うん、早川と佐野に聞いて」 「……」  チッ、と小さく舌打ちをして聖は真壁に背を向けた。  その背中がやけに怒りのオーラを纏っていて、いつものようにずかずかと上がり込むことが躊躇われた。 「……上がんねぇの?」 「えっ、あ、うん、お邪魔します!」  低い声音で問われ、思わずどもりながらスニーカーを脱ぎ捨てる。  いつもならば丁寧に揃えるのだが、じっと真壁の動向を見守っている聖からはそれをさせまいというオーラが漂っている。  ボゴン、と鈍い音をたて狭い玄関に落ちるスニーカー。 「……」 「……いいよ、そのままで」  聖のサンダルの上に落ちたスニーカーを拾いあげようとした手を掴まれた。 「っ、」  やけに熱い聖の手に驚き、思わず振り払ってしまう。  引いた筈の汗が、じわりと背中に滲んでいくのを感じる。  呼吸はすでに落ち着いていたはずなのに、なぜか息苦しい。

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