29 / 82

14

 真壁の揺れる視界には、縛られた両手を強く握り込んだまま俯き、声なき声で嗚咽をあげる聖が映っていた。  どれだけの力で握り合わせているのか――その両手の甲には爪の痕が濃く残り、血が滲んでいる。ベルトが食い込んだ手首は擦れ、真っ赤に腫れてしまっている。  ドクリ、ドクリと心臓が痛みを訴えかけてくる。  そっと聖の身体を離し、震える肢体にタオルをかけてやって真壁はただうなだれた。  熱くて熱くて、どうしようも無かった身体がすうっと冷え切っていく。  何度も何度もやめてくれと、そう叫んではいなかったか。なのに、己の欲望に負け、何よりも大切で、誰よりも好きなひとを傷付けてしまった。  それだけは嫌だと、ずっと耐えていたのに――どうしてこんなことになってしまったのだろう。 「……ごめん。ごめん、聖……ごめ、……っ」  震えるばかりで何も答えない聖の背を見て、真壁の瞳から一筋の涙が滑り落ちた。  堪えきれなかったそれは次々と溢れ、後悔の念に苛まれる真壁の頬を濡らしていく。 「好きで、ごめん。ごめん、……好きだ」  好きと、ごめん。  その言葉だけを何度も繰り返し伝え、真壁は肩を震わせる。  じわじわと煩い蝉の声だけが、ふたりの間に転がった。

ともだちにシェアしよう!