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 いつもはくるくると動く黒い瞳がとろりととろけ、荒い息を吐き続ける開いたままの唇からは飲み込みきれない唾液が一筋こぼれ落ちた。  乱れた呼吸のまま力無く横たわった聖の腰を、真壁の両手が掴んだ。  そうして抱き寄せてぴったりと肌を合わせると、聖の太股を熱い雫が伝っていく。 「な、に」 「……聖」 「ひっ、お前、何当てて……!」  小さな蕾に擦りつけられるそれは、ぬるぬると上下している。ドクドクと、心臓が激しく脈打つ。  どうしてこんなことになったのか――やめろ、と何度目かわからない拒絶の言葉を吐き出せば、ぐっと両手で腰を抱かれた。まるで、愛おしいと、心から訴えかけてくるかのように。  けれど、顔の見えない体勢は聖の不安とかなしみを煽るばかりで、甘い言葉も熱い抱擁も、何の意味も持たない。 「……ごめんな。好きだ。めちゃくちゃ好きなんだ」 「待っ、……!」 「聖……聖」 「やだ、やめろ、頼む……ッ、まかべ!!」  ぐっ、と拓かれていく痛みに震え掠れた声で放たれた名前。  車が走る音に遠くに響く子どもたちの笑い声、気の早い蝉がわんわんと鳴く声――すべての音を遮断していた真壁の耳に、その声が届いた。  次いで、耳鳴りとともに沢山の音が戻ってくる。 「……ぅっ、……ッ」 「ひじ、り……」  どくり、と胸を打つのは、これまでの付き合いで一度も聞いたことのない――聖の泣き声。

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