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大学入学直後、交通の便があまりに悪かったため、真壁はバイクで通っていたという。
けれど大学の近くに部屋を借りてからは実家に置きっぱなしにし、今日は久しぶりに乗ったんだ――そう告げた真壁の運転は、彼の穏やかな性格らしく至極安全なものだった。
「さんきゅ」
「ん」
無理な運転はしないけれど、しっかり掴まっておくようにと釘を刺されていた聖は力いっぱい握り込みすぎて皺の残ってしまった真壁の服を気休めに伸ばしてバイクを降りた。
陽が沈み、幾分か涼しくはなったものの風のない初夏の夕暮れはそれなりに暑い。それも、雨上がりの今は湿気のせいで不快指数が跳ね上がってしまっている。
ヘルメットを脱ぎ、汗の滲む額を拭いながら真壁に渡すと、聖は親指で自身の部屋を指差す。
「上がってくだろ?」と。いつもより強張った表情で。
言葉を受け取る真壁もまた、強張った顔で頷き先を行く聖の後をついていく。
空には、消えかけの虹が静かにふたりを見下ろしていた。
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