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第1話
コン、コン、コン、とリズミカルなノックの音と共に開けられたドアの隙間から見える、やけに顔の整った男性。その姿はまるでアニメの世界から飛び出してきた王子様そのもの。
俺は慌ててカップラーメンを啜るのをやめて、男性の方に歩いて行く。
「ようこそ。なんでも屋へ! 私、椎名 と申します。 ご依頼ですか?」
「……はい。お願いしたい事があって。 本当に何でもしてくれるんですよね?」
男性の少し言いずらそうにしている様子からして、依頼は『女性関係』だろうと確信した。 男性の依頼で結構多いのだ。「愛されているのか不安だ」とか「俺の事をATMと勘違いしているんじゃないか」とか、それはもう色々。
都内の一番安いビルの一室を借りて営んでいる『なんでも屋』には色々な依頼が舞い込んでくる。 例えば、浮気調査だったり、引越し手伝いだったり。昨日は迷子の猫を探した。
「俺に出来ることなら、何でもしますよ」
「そうですか。良かったです。 では、コレを試させてもらえませんか」
男性はビジネスバッグと一緒に持っていた紙袋をずいっと俺の前に差し出した。 中身は厳重に覆われているようで、上から覗くくらいじゃ何が入っているのか確認出来なかった。
「拝見してもよろしいですか?」
「はい。中はなんの面白みもないアダルトグッズですが」
「……はい?」
なんの面白みもない、アダルトグッズ……?とは?? なぜアダルトグッズを大量に引っさげてんの? この人はいつも大量のアダルトグッズを持ち歩いてんの?
意味を理解するよりも、自分の目で確認した方が早そうだ。 紙袋の中身を出すと、一つ一つ個包装になっているが、包装していても分かるドギツイ色をした箱。
え、アダルトグッズってマジなの?
「……変態?」
「失礼な。 申し遅れました。私、こういう者です」
俺の失礼な発言にも、あまり表情は変わらず眉をピクリと動かしただけだった。イケメンなのに無表情とは勿体ない。まぁこの顔じゃあモテモテで困ってますという感じだろうけど。
男性から名刺を渡され拝見する。
『トイランド 開発・営業部 一条 煌 』
「えーと、遊園地を作る人?」
「違います。 アダルトグッズを開発する会社です。 本日お伺いしたのは、この試作中のアダルトグッズの感想を聞けたらなと思いまして」
聞いた事のない会社名だったが……なるほど、アダルトグッズを開発しているのか。 すごいじゃないか。
でも感想ってなに?嫌な予感がするんだが。
「あの、もしかしてですけど……。それ、俺に使うつもりですか?」
「そうですけど?」
「お断りします!」
俺は首を振って、一条さんから距離を取った。 確かに何でもすると言ったが、まさかこんな事になるとは予想していなかった。
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