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第2話

「なんでもやるって言ったじゃないですか。俺、確認しましたよね」 「まさかアダルトグッズを試させてくれと言われるなんて思ってなかったからな! 絶対やだ!」 一条はジリジリと距離を詰めてきて、とうとう背中に壁がついてしまいこれ以上逃げられない。 長身の一条からは、チビでちんちくりんな男がピーピー鳴いてる様にしか見えないだろう。 「まだ内容聞いてないでしょう。一応聞いて貰えませんか」 「聞くだけな! 何されるのか簡潔に述べよ!」 「お尻にバイブやディルドを突っ込まれます。後はローターとか、あとローションも試したいな」 「嫌だ!!!」 まさかの処女喪失じゃないか! 俺は男だしゲイじゃない!お尻にナニを突っ込まれるのは御免だ!俺は突っ込まれるより突っ込みたい!女の子の柔らかい胸に囲まれたいの!! 叫ぶ俺と、はぁ……とため息をつく一条。その様子はまるで駄々をこねる子どもと、その母親のようだ。実際そんな可愛らしいものではないが。 「分かりました。 じゃあ、椎名さんの処女喪失に5万円、玩具一つにつき2万円お支払いします。一つの玩具を試すだけで7万貰えますよ」 「な、ななまんえん……!」 7万もあれば、カップラーメン以外のご飯も食べれるし、今月の家賃も払える!久しぶりにキャバクラに行って可愛い女の子に囲まれるのもいいなぁ。 カツカツの生活に明るい光が見えると、ついそちらに行ってしまうのは、仕方のないことだと思う。 「悪い話ではないでしょう。キャバクラでもソープでも、思いっきり遊べますよ」 「……よし、いいだろう!」 結局、お金の魅力には勝てないのだ。 絶対に嫌だ!と思っていたのに、今では「何事も経験だ」なんて都合のいいように考えてしまっている。 よく言われる。「単純でバカ」だと。自分でもそう思う。 「じゃあ、移動しましょうか。近くのラブホテルでも行きましょう」 「そ、そうだな……。ここではダメだもんな」 事務所兼家の狭くてボロいこの一室で、あんなことやこんなことをやってしまうのはかなりマズイ。壁が薄いから隣に聞こえてしまう可能性がある。そんな事になれば俺は職も帰る家もなくなってしまうのだ。それだけは絶対に避けたい。 ドアの前にCLOSEの看板を引っ掛けて、一条と共に事務所を出る。 カツカツと革靴が鳴る一条の後ろを縮こまって着いていく。 緊張しているのは俺だけなんだろうな……。だって一条は俺に突っ込むだけだし、こんな仕事をしているから慣れているのだろう。処女喪失する前の女の子ってこんな気持ちだったのか。これからは優しくしよう。 「ここ、男同士でも入れるらしいです。ここにしましょう」 「うわ、なんか高そうじゃね?俺さっきカップラーメン買ったから500円しか持ってねぇぞ」 「はぁ……。500円で今月乗り切るつもりだったんですか? 大丈夫です。俺が払いますから」 そう言ってくれて助かった。今月500円でどう乗り切ろうかと思っていたところだ。でも、今日で大きなお金が手に入るし、結果オーライだ。

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