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第3話

「何で俺が、お前の従順な犬になったのか忘れたのか?」 あの鋭い目で見つめられ俺は混乱した。 何で?何でってなんだよ。 沈黙が続く中、俺は懸命に記憶を遡る。 なぜこんな関係になったのか。 以前はこんな異様な関係じゃなかった。 普通の友人同士だった。 でも、それを覆すような何かを言われたような ───好きだ。 頭に響いた暁人の声。 いつかの夏、確かにそう言われた。 そうだ…暁人は俺のことを…。 ───好きなら俺の言うことに従え。そしたら考えてやる。 ああそうだ。 あの時、返事に困った俺が咄嗟に返した言葉だ。言ったのは俺だ。確かに俺だ。 だから暁人は言いつけを今まで守っていたんだ。 蘇った記憶に心臓の鼓動が突然速くなった。 息苦しさを覚えるほどの緊張感に戸惑う。 「どうして欲しい?お前の言うことに従う」 俺にのし掛かる暁人は俺の命令を待っている。俺に歯を向けながらも命令を待っている。 馬鹿みたいな命令を黙って全て受け入れる程に暁人は俺のことを…。   「お、俺のことどう思ってる…」 「好き」 迷いのない言葉に顔が熱くなる。 あんな扱いをしていたのに今までずっと…。 「ッ、俺とヤりたいとかって思うのかよ…」 「ああ、抱きたい。全身舐めたい」 無表情の顔が少し熱っぽく感じられる。 返す俺の声は震えていたかも知れない。 「っ、好きにしろ」 「そうじゃなくて、ちゃんと命令しろよ。お前の言葉でちゃんと」 「───お、俺を…だ、抱け」 俺はホモでもゲイでもない。 俺が女にしてきたように、俺が同じ男にそれをされる。 大きな舌が全身を舐め回し、熱く太いものに狭いナカを抉られ、知らなかった快感を体と記憶に刻まれる。 「ああッ、も、もっと…暁人…もっとッ」 今までのセックスはなんだったんだ。 体勢を何度も変え、交尾のように後ろから突かれると堪らなかった。 譫言のように自然と口から漏れていく言葉をす掬うように顎を掴まれ、微かに笑っている暁人にキスをされる。 苦しい体勢のまま暫く舌を絡ませた後に離れていく口元から覗く、やけに尖った犬歯が肌に食い込む感触に、腹の奥が熱くなった。 【end】

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