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都合のいい友

 そもそも男が「好き」なんて言えないから……  仲のいい友達のうちの一人。その中でもせめて俺が一番になりたい、その一心で祐樹(ゆうき)大智(たいち)に近づいた。  幼少期から自身のセクシュアリティに悩み、その事実をずっとひた隠しにしてきたから、恋心を打ち明けるなんて選択肢は勿論無い。大智のモテっぷりに涙を流したこともある。それでも大智と一緒にいたいがために、いつも行動を共にしていた。  俺は大智やその彼女たちの相談相手──  大智の側にはいつも「彼女」がいる。祐樹にとっては邪魔でしかないその女たちは、恋の悩みは勿論、勉強のこと、家族のことなど、様々な悩みを祐樹に打ち明けた。祐樹は大智以外の話なんてどうでもよかった。それでも大智が自分を頼りにしてくれるために大智の周りの人間にも「いい人」を演じる。何年こんな事をやってきたのだろう。報われない恋とはよく言ったもの。祐樹は自分自身を慰めながら、それでも一縷の望みは捨てきれていなかった。  大智は所謂人気者だ。  皆から好かれてるからやきもきもするけど、でもモテる大智が祐樹には誇らしくもあった。大智に彼女ができても長続きしないのは、きっと誰にでもいい顔をして付き合いが幅広いから。何度も見る恋人との別れに、いつかは自分もその隣を独り占めできればいいのに、と淡い希望を夢見ていた。 「これ! 着てみて! 絶対似合うから」  大智の部屋で寛いでいた時、嬉しそうにそう言って祐樹に渡してきたのはまさかのセーラー服。おまけに一緒にいた彼女の朱理(あかり)まで祐樹にメイクをしてやるとノリノリだ。 「なんで女装? 嫌だよ……」  拒否はするけど、こういうノリの時は意見なんて通らないのを知っている。いつもの悪ふざけ。大智にわざとらしい上目遣いでお願いされた祐樹はすぐに諦め黙って頷いた。  こうやって俺は何度こいつのふざけた要求に従ってきたんだろう──  面白いからと言っては一番身近な祐樹に矛先が向くことが多かった。ちっちゃな悪戯やこういった大智の気まぐれの相手。大智は祐樹なら断らないとわかっていて無茶振りをするんだとわかっていた。「いいよ」と笑顔を見せながらも、祐樹はこういう時の「都合のいい友」という立場が心底嫌だった。 「絶対似合うと思うんだよね、だってお前すげえ綺麗な顔してるもん! 肌もすべすべツヤツヤだしさ」 「………… 」  好きな人に褒められたらどうしたって嬉しく思ってしまう。綺麗な顔だと思われていたのか……と単純に喜んでしまい祐樹は「当たり前だろ」と軽口を叩いた。隣の部屋で自らセーラー服に着替え、盛り上がっている朱理に化粧を施してもらうべく顔を預けた。 「……嘘、ヤバイね」  最後に真紅のリップを唇に塗られる。朱理は祐樹の完成した顔を見て溜め息をついた。祐樹は自身では鏡を見ていないからどんな風になっているのかわからない。ただ朱理のいう「ヤバイね」の言葉はいい意味でのことなのか、悪い意味でのことなのかどっちともつかず、ただただ不愉快だった。  ウイッグを被せられ、大智に見せに行けと言われ渋々部屋を出る。 「満足かよ?」  恐る恐る聞いてみると、大智は今までに見せたことのないような微妙な笑顔で頷いた。 「は?」    なにそれ、可愛いんだけど……  どう見ても大智は照れている。ギャーギャー言って笑われるかと思っていた祐樹は拍子抜けした。拍子抜けどころかこんな反応をされてドキドキしてしまう。何年もずっと大智の側にいて見てきた祐樹には、大智の自分を見る目が今までとは全然違うことにすぐに気がついてしまった。まさかこんなタイミングでそんな視線を向けられるなんて思ってもみなかった。祐樹は僅かに欲情しているその視線に耐えられず視線を外した。 「祐樹君ヤバイよね、そこらの女より断然可愛いし。あっ! 私これからバイトあるからそろそろ帰るね」  邪魔だと思っていた彼女がグッドタイミングで帰っていく。 これはまたとないチャンスだと、祐樹はわからないように深呼吸をした。

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