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1:お代は俺のキスでどう?
このバーの入り口に立つ時、薫 はいつも緊張していた。入ってしまえば全然緊張しないのに、どうして入る前はこんな風になるのかいまだに自分でも分かっていない。
いつも持ち歩いている手鏡で、顔をチェックする。いつも通りの、平凡な顔がそこに映っていた。そして、髪の方もチェックして、服装もチェックする。
そして、自分なりの合格点が出せたところでドアを開けるのだ。
「由 さん!こんばんは!好きだから、俺と付き合って!」
「だから、ガキとは付き合わねぇって何回も言っただろうが薫」
入った瞬間、薫はいつもと同じように愛の告白をする。その告白を向けられているのは、もちろんこの店、Bar【陽炎 】のバーテンダーでオーナーでもある平井由 である。
ほとんど毎日このやり取りが見られているので、他の客も慣れたものである。まぁ、ほぼ純粋で出来ている薫の味方をする方が増えている。
「由さん。何回も言うけど、俺はもう子供じゃないてば」
「俺からしたら、21歳も子供に決まってんだろ。ったく、酒もバナナミルクしか飲めねぇくせに」
「そこは関係ないだろ!」
いつも、薫の為に空けられているカウンター席に座り、恥ずかしながらもバナナミルクを頼んだ。それに由がケタケタと笑いながら、薫の注文したバナナミルクを作る。
「ほら、バナナミルクだ」
「ありがとう、由さん」
「だから、これ飲んだらさっさと帰れよ」
「やだ」
帰りたくなくて、薫は用意されたバナナミルクをちびちびと飲む。そんな薫に由は呆れながらも、無理矢理帰そうとはしない。
そんなところが優しくて好きなんだよなぁと思いつつ、薫はあることに気づく。
「由さん」
「あ?」
「ごめん。財布、大学に忘れちゃったみたいだから。だから、お代は俺のキスでどう?」
「却下に決まってるだろうが」
由の返答に少し頬を膨らませた薫は、さっき以上にちびちびとバナナミルクを飲んだ。
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