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2:運命みたいな一目惚れ
「みんなしゃぁ、おれがよししゃんしゅきになったきっかけ、しりたい?」
バナナミルク1杯で酔っぱらった薫が、ニコニコと嬉しそうに語りだす。この店に来たことある客なら、何十回と聞いた話だ。その話を薫は、昨日のことのように話す。
「あぇは、おれのたんじょーびのひだった」
~1年ほど前~
「ここって、お酒が出る店だよな」
20歳の誕生日を迎えた薫は、記念にお酒を飲もうと店を1人で探していた。ここは飲みや街。たくさん店はあるのだが、ガヤガヤと楽しそうで薫には到底入ることが出来なかった。
ガヤガヤしている場所は、友達のいないコミュ障薫にとって拷問を受けていると同じぐらい苦痛を感じてしまう。
だから、1人でも飲めるひっそりとした店を探しているのだが。これがなかなか見つからない。これは、諦めて帰った方がいいのか。そう思った時、見つけたのだ。
「Bar?ってことは、お酒!」
黒をメインとした外装はとてもオシャレで、ガヤガヤなんてしてなさそうで。大人っぽい店だとは思ったが、ここしかないと薫は怖がることなくドアを開けた。
ドアを開けたその先は、想像してた雰囲気と少し違っていた。
大人っぽい感じで統一された店内と、それに似合わない感じで騒いでいる客。だが、その騒ぎ方も、どこか上品さがあって。初めて入った薫でも、馴染みやすい感じだった。
しかし、こういう店に入ったことのない薫はどうしたらいいか分からず。ドアの前で立ち尽くしていた。すると、店のカウンターの内側にいた髭を生やしたオヤジが、薫の方に近づいてきたのだ。
「なんだ?初めて見る顔だな」
「うぇ!えっと、あの、俺、」
「あ?」
「今日20歳の誕生日で、それで、おさけ」
「酒、飲みに来たのか?初めてで、こんな店にか」
一瞬、バカにされたように感じた。しかし、自分はもう20歳。お酒も飲める大人になったんだ。コミュ障の俺だって、やるときはやるんだ!その意気込みを胸に、薫はオヤジを強い視線で見上げた。
「そうだよ!初めてでこんな店ですよ!大人の仲間入りしたんですから、その、俺だって、おれだって!」
「ブハッ!おま、面白いな。まぁ、初めての酒を飲むのに俺の店を選んでくれて、ありがとな」
優しそうな笑みを浮かべたオヤジが、大きな手で薫の頭をポンポンと軽く叩いた。
そして誕生日だからと、初めの1杯をサービスしてくれて。
その優しさと、笑顔と、タバコを吸う姿と、まぁいろいろなことが絡まりあって。
「よししゃんをしゅきになったんでしゅよぉ、」
きっかけを話し終えた酔っぱらい薫は、すぐ隣に座っていた客にもたれ掛かって眠った。満足したように眠る薫を見て、店の中に静かな笑いが起こる。由は、少し照れくさそうに笑っていた。
「愛されてるねぇ、由さん」
薫にもたれ掛かられている客が、ニヤニヤと笑いながら言う。そう言われた由は、うるせぇと思いつつも邪険に出来ない薫の頭を優しく撫でた。
出会った頃と同じように、優しい笑みを浮かべて。
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