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3:この気持ちは本物
大学も終わり、薫は帰る準備を済ませると急いでバイトに向かう。今日はバイトが終われば、由の店に行く予定だ。一緒に住んでいる兄の翔 にも行くと伝えてある。最初、由の店に行く薫にいい顔をしなかったが、薫の本気の気持ちを認め今では呆れた顔をするが快く見送ってくれる。翔自身も男と付き合っているからか、薫の恋を応援してくれていた。
「兄ちゃんも応援してくれてるんだ。頑張るぞ、俺!」
今朝、頑張れと言って見送ってくれた翔の姿を思い出し、薫は意気込んだ。そして、バイト先に向かう途中で由の姿を見かけた。
バーで見るバーテンダーの衣装ではなく、ジーンズに白いTシャツに身を包んでいる由。私服もかっこいい!と思いつつ、由の名前を呼ぼうとした時だ。由の隣に人がいることに気づいた。
自分よりも少しだけ背の高く、そして可愛くもあり美しくもある顔立ちの自分と同じ年ぐらいの男。由に笑いかけ、そして当たり前のように腕に手を絡めている。由もその男に笑いかけ、愛おしそうに頭をなでていた。
チクリと胸が痛んだ。
由に相手にされていないことも分かっていたし、冗談に受け止められているのも知っている。だから、由が自分と同じぐらいの年齢の男と一緒にいる姿を見ると、嫉妬心みたいなのがわき上がった。
自分には見せない表情をあの男には見せている。平凡な自分とは違う、可愛くてそれでいて美しい男。
声をかけようと思っていたが、嫉妬心が溢れ出した薫には出来なかった。気付かないふりをして、その場を後にすることしか。
そのことを、バイトが終わってそのまま帰ってきたことを心配した翔に話した。話を黙って聞いていた翔は、聞き終えると薫をそっと抱き締めた。
「薫。お前は、本当に由って男が好きなんだろ」
「うん、」
「だったら、本気で向かわないと。自分の容姿なんて、由って男の隣に誰がいたって関係ない。薫、今までは本気に見せかけていつでも冗談ですって言おうと思ってたんじゃないか?」
「…………………」
「本気で由って男にフラれた時に、自分が傷つかないように」
「ちがっ、」
「俺もさ、お前と一緒で自分の容姿に自信がなかった。だから、お前と同じように容姿のいい奴に嫉妬もしたよ。でも、いつでも本気でいってた。だから、今あいつと付き合っていられるんだ。俺の本気の想いに、あいつが全力で応えてくれたから」
翔とその恋人の姿を思い出す。2人は、本当に愛し合っていて。そうなったのも、翔が本気でその人に向かっていったからで。
「俺のこの気持ちは、由さんに対する好きって気持ちは、全部本物だよ」
「うん」
「本物なんだよ、にいちゃん」
ホロリと、薫の瞳から涙が零れ落ちる。その涙を翔は拭おうとはせず、ただ優しく抱きしめていた。
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