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第1話
『あーん』
『…っ?? だ、だめだめだめだっ…んぁッ』
後ろから羽交い締めにされ、両手ともヤツの片手で軽々と捕らえられ、嫌々と振っていた首も顎を捕らえられて固定されている。
べろん。
生暖かいヌメッとしたものが、首筋をひと舐めした。まるで、味見でもするかのように。
その感触に、身体中に鳥肌がたつ。
『…しょっぺ。あんなに走るから』
そりゃ、あんだけ追いかけ回されれば逃げるに決まってる。
…結局、捕まったけど。
『あぁ、でも』
スンッと首筋に鼻を近づけて匂いをかがれる。
吐息が 舐めて冷たくなったそこにかかって、なんとも言えない。
『いい匂い』
わざと耳元で、囁くように。
ゾワッと腰に響く。
む、無駄にいい声。
『は、離せ!』
『なんで?鬼に捕まったんだから大人しく喰われろ』
『お、鬼ごっこはそんな遊びじゃない!!』
あむっと、耳を甘噛みされる。
『ひっ!!』
あむあむと耳朶を食まれ、つつッと耳の形に沿って舐められる。
『あ…や、やだ、さ、えきっ…』
『だーめ。いい子にしてな。気持ちよくしてやるから』
そんなの、望んでない。
手も顔も捕まっているので、唯一自由な足をバタバタと踏み鳴らす。
お、鬼ごっこなんて、しなけりゃ良かった!
今では遠い昔のような、鬼ごっこの始まりを思い出して涙した。
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『鬼ごっこ?』
『そー、やろうよ。鬼は佐伯で』
そう言うクラスメイトは振り返って鬼に指名した佐伯を見た。
佐伯は高2の今年、初めて同じクラスになった180センチはあろう長身とあっさりした顔立ちのタレ目の人気の男子だ。
そんな人気男子な佐伯とは、気づくと やたらと目が合う。何を言うでもなく、じっとこっちを見つめている。
いつもいつもいつも、だ。
気にならない訳がない。
その視線の意味。
最初は何?寝ぐせ?歯に何かついてる?くらいに焦ったけど、佐伯は何も言わないで、いつもいつも俺をただ見ているんだ。
『あとねー、俺と後藤と花ちゃんと鹿島と田崎!』
クラスメイトの名を告げられ、なんとなくで了承した。
面白そうだし。
なんて考えていた俺が馬鹿だった。
『…っ??』
『おーざーわぁ!!!』
あの後、佐伯はなんの迷いもなく俺のみに焦点を合わせてその長い足をフルに動かして追いかけてきたのだ。
ゲラゲラ笑う周囲に見切りをつけ、俺は走って、なんか怖くなって走って走って走って逃げた。
鬼ごっこに参加したことをめっちゃ後悔した。
体力ないんだった。
走って走って走って逃げた先は、旧校舎の3階の1番奥の人気が全くない廃教室だった。
…めっちゃ後悔した。
こんな場所にたどり着いた自分に。
そして、冒頭に戻る。
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