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第1話

 五十に近い歳である(ソウ)とクレイグはまだ若い者には場所を譲らないと、昇進の話を蹴とばして「剣の第一部隊」と呼ばれる強者揃いの第一部隊に居続ける。  互いにしわはふえたし、白髪もある。だが、宗は細身ながらも筋肉はついており、その肉体は今も美しい。艶やかな黒色の髪がさらに魅力的にさせるし、クレイグは大柄で屈強な肉体を持つ。特別に作らせた大型で重たい剣を軽々と振り回すほどの力もあるし、実戦経験も豊富で騎士団の中では一番の腕前だ。  都合が悪いときは年寄だからと逃げ口に使うが、戦いとなると別だった。  今は三大強国で平和条約が結ばれており国同士での大戦はないが、騎士としてワジャートの民に何かあれば一番に現場へと向かうのだ。  今日も盗賊の一味を捕まえてきた後で、馬を馬小屋に戻し第一隊専用の宿舎へと向かう途中、 「お年なのですから、いつも真っ先に飛び出して行かぬようにと申しているじゃないですか」  部隊の中で年長であるクレイグに物申すことができる一人、宗の息子である(シュウ)に釘を刺されるが、耳に指を突っ込んで聞こえないふりをする。 「嫌だねー、お前さ、ますます宗に似てきたんじゃない?」  宗の父親は剣舞の腕を見初められ三強大国のひとつ、漢栄(カンエイ)からワジャート王国へとやってきた。  真っ直ぐでサラサラな美しい黒髪と切れ長で色っぽい目は母親譲りで、性格は父親に似ているが体格の良さは受け継がなかったようだ。  特に戦っている時の宗は美しい。見事な剣さばきで強い相手に挑んでいく。その姿に心を奪われた。  戦う姿を近くで見ていたい。その思いで、一番の友達というポジションを手に入れたのだが、彼の心は別の女性が射止めていた。  宗の妻、朱玉(シュギョク)も漢栄の出身で、それは大層美しい女性だった。  朱玉は酒場で踊り子をしており、美味い酒の美女の踊りは酒場の者達を酔わせていた。  そんな彼女を、ガラの悪い男達が暴力にものを言わせて手中におさめようとした。それを助けたのが宗とクレイグだった。  それがきっかけで仲良くなり、それから宗と朱玉が結ばれるまであっという間だった。婚姻し、息子の周が生まれたのは。  いつか誰かの者になる。その相手が朱玉でよかったと、クレイグは素直に二人の幸せを願い、周が誕生したときには自分の子供が誕生したかのように喜んだ。  だが、そんな幸せな日々も終わりを告げる。  その年の冬は寒い日が続いた。  朱玉は持病もちで、日々、体力が落ちていきベッドから起きあがる事すらできなくなってしまい、最後は眠るように逝った。  今でも宗が静かに涙を流す姿が目に焼きついている。

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