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第1話

「いらっしゃいませ。お久しぶりですね。ああ、雨が降っているようなのでタオルを」  マスターが笑顔で迎えてくれる。ボーイがタオルを持ってくる間に立ち話をする。 「東京に梅雨明け宣言が出たから大丈夫だと思ったんだけどな、このザマになってしまった。いい加減店の前にでも駐車場を作って欲しいよ、全く」  店の中からは口笛と、「よっ、水も滴るいい男!」との声がする。  それらに手を振ってからマスターの方に向き直る。 「大学のゼミのレポートが溜まっててさ。来たい、来たいとは思ったんだけれど「優」じゃないと就活の時に不利になるだろう?」  ボーイが恭しく差し出したタオルを受け取った。ボーイも中腰だったし、オレの背が高すぎるので身を屈める必要は有ったが。 「よっ……アキラ、久しぶりじゃん?」  オレの大学と同じようなノリではあるが、一点だけ違うところがある。客もスタッフ全員が男性だということだ。つまりはそういう場所なわけで、オレの最も居心地のいい場所になっている。 「ああ、学生だから仕方ないさ」  通りかかったウエイターにビールを注文する。 「で、何盛り上がってんの?」  何だかアルコールとかヤバい薬の盛り上がり方とは違う。それにマスターは、店の中で何をしようと笑って見逃す。一度なんて店を借り切って相手構わずそういう行為に耽ったこともある。 「ウソでも面白いんだけどさ、ここから車で30分とかからないトコにデカい洋館が建ってるんだって。それも物凄い、うーん、何て言ったっけ、ア…ア…」 「喘ぎ声出してんじゃねよ」とヤジが飛ぶ。  そういうフレンドリーな空間が大好きだ。 「アンティーク、それともアールデコ?」  説明しているのはユウトで、どこかの大学に行っている。同い年でイイやつなんだが、記憶力はイマイチだ。 「アンチチークとか言ってたな」  やっぱり記憶力は全くアテニならないことは良く分かったが、アンティークな洋館なら一見の価値が有る」  ただ、異様なのは皆の雰囲気だ。  ビールで喉を潤してから、そんなに広くはない店内を見渡した。この店は一見さんお断りだし、社会的には隠さなければならないマイノリティの欲望も赤裸々に語られているのが気に入っている。  皆が好奇心で目をキラキラ、いやギラギラさせている。

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