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第11話
尚史が俺に顔を近づけてきた。
「お前に聞きたいことがある」
なんだ。そんな改まって。
思わず身構えたが次の尚史の言葉に、
ふっと身体の力が抜けた。
「伊咲と付き合ってるわけじゃないよな?」
なんだ、そんなことか。
伊咲とはazuの話が合うからよく話すだけで、
それ以上でもそれ以下でもない。
azuの話、というより
そもそもvommitの話が通じる人が少ないから、
俺にとって伊咲のような存在は貴重である。
が、それ以上でもそれ以下でもない。
「付き合ってないよ」
「あず以上の関係は無いんだな?」
尚史は念押ししてくる。
あず以上の関係ってなんだ。
「無いってば」
「そうか」
尚史は安心したようにホッと息を吐いた。
「真央は変にモテるから油断ならねぇ」
「変ってなに」
「そこに好かれるのか〜?!みたいな
変な子にモテるじゃん」
全く自覚してなかったことを言われて
俺はくるんと目を回す。
そうだったのか。知らなかった。
「ほら、いつだっけか、
すっげぇストーカーの気持ち悪い女の子とかさ」
「そういう言い方やめなよ…」
確かに、ストーカー紛いのことをされはしたが、
毎朝玄関で待ち伏せされたりとか、
学校の帰りに家まで後をつけられたりとか、
それぐらいだ。
しかも高一の時同じクラスだった女の子で
素性も知っていたから、特に何も思わなかった。
教室にいる時もめちゃくちゃ見られてたし。
あの子は文系で俺は理系だから、
今はクラスが完全に離れてしまいもう会うことは無い。
「あと、あの子だ、田原くん」
「え?」
田原くん?
聞き覚えのない名前に首を捻る。
去年同じクラスだった子だろうか。
いや、そんな名前の子はいなかったはず。
「多分お前は知らねぇけど、俺、同中だったから、
田原くん。一年の時、隣のクラスな」
うーん。知らない。
尚志は淡々と言葉を続ける。
「なんか、田原くんお前のこと好きだったみたいよ」
「ええ?」
俺、男なんですけど。
「なんか雰囲気が良かったんだとよ」
「へぇ…」
そんなこと言われても、田原くんが誰か分からないし、
喜ぼうにも突拍子もない話しすぎて。
俺は男を好きになったことないし。
そもそも、女の子のことだって
本気で好きになった子はいないんじゃないか。
人に執着心はない方だった。
…azuを知るまでは。
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