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第39話

ガシャーーーンっという大きな音がして 俺は歌うのをやめた。 「…っ、失礼しました!!!」 どうやら、店員さんがグラスを落としたらしい。 幸い廊下に落としたので部屋の中は綺麗だ。 慌てて扉を閉めた店員さんが 割れたグラスの破片を拾う姿が見える。 「あー、ビビったー」 「心臓止まりかけたー」 なんて言う声が上がるのを聞き流しながら 俺はガチャっとドアを開けて外に出た。 「大丈夫ですか?」 ビクッとして顔を上げた店員さんと目が合う。 瞳がぐらぐらと揺れている。 すぐに伏せられたその目に一瞬見入ってしまった。 「あ、大丈夫です、すみません」 「いや、いいですよ。二人でやった方が早いでしょ」 というのは建前で、 本音はこれで礼央達から逃げれられる。 偽善者でごめんなさい。 俺は破片拾いを手伝うためにしゃがみ込んだ。 店員さんはまたビクリと飛び上がる。 行動一つ一つに驚かれるのはなぜ? 対人恐怖症なの? 「蒼、何してんの?」 冬弥も出てきてくれたが 「いいよ、冬弥は歌ってて」と部屋の中へ押し戻す。 冬弥が出てきて俺が部屋に戻されたら また歌わされる、嫌だ。 冬弥は何か言いたそうに眉をひそめたが 俺がふるふると首を横に振っていると 諦めて部屋の中へ入っていった。 そんな一連のやり取りを見ていた店員さんは、 恐る恐る話しかけてきた。 「あの…続き…う、歌わなくて、いいんですか…?」 目が泳いでいる。 何でそんなにおどおどしてるの? 人見知りなの? 「あー、いいです、歌わされてただけなんで」 俺は愛想の良い笑顔を浮かべて 落ちているグラスの破片を拾い始めた。

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