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第38話

今日はフロア担当だった。 退出後の部屋の片付け、トイレやフロア全体の清掃、 オーダーされた商品をお客様の元に届ける、 仕事内容は大体こんな感じ。 「失礼しまーす」 ジュースを運んだ部屋は男子3人、女子2人の きゃっきゃっとした空間。 グループデート、ではないか。 一人多いし。 ちらりと見遣って、げ、と顔をしかめる。 うわ、制服俺の学校じゃねぇか。 見かけない顔だから知り合いではないな。 それでも同じ学校って、ちょっと嫌だ。 零さないように慎重に机の上に置いていく。 前髪をゴムで括って額を見せている 制服を着崩したチャラめの男の子が、 歌ってる途中で 向かいに座っていた男の子にマイクを渡した。 「蒼歌え!」 その言葉に女子達がきゃあっと歓声をあげる。 なんだ、蒼くんは人気なのか。 チラッと顔を見ると、たしかに整った顔をしている。 「蒼くんの歌聴きたーい」 「歌ってー!」 蒼と呼ばれた男の子は苦笑いをして 手を横に振って拒否をする。 歌うの苦手なのか。 苦手なのに無理やりカラオケに連れてこられたのか。 可哀想に。 しつこく言われ続けてるのを横目に ジュースを全て置き終わり 空になったグラスを回収した俺は 「失礼しました」と部屋を出ようとした。 「サビだけで勘弁して」 小さく呟いた蒼くんの声に思わず立ち止まる。 好きな声。 すぅ、と息を吸う音。 脳に流れ込むメロディー。 鼓動を早める俺の心臓。 蒼くんの歌声がマイクを通して、部屋に響いた。 ゾクッとした。 この声。 知ってる。 俺は持っていたグラスを床に落とした。

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