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第55話

探すまでもなかった。 目当ての人はカウンターにいたから。 「いらっしゃいませー」 「なーなーせーさんっ」 「っ?!」 礼央の後ろからひょこっと顔を出すと 案の定、七瀬さんはビクッと飛び跳ねる。 「なに、蒼知り合いなの?」 「んー、この間グラス割った人」 「あーね」 「その節はすみませんでした…」 七瀬さんは深々と頭を下げた。 相変わらず面白い人。 次はいつ来ますか?と聞かれてから まだ一度も会いに行ってなかった。 チラチラとこちらを気にしながら 仕事をする七瀬さんに何度も笑いそうになりながら 礼央が受付を済ますのを待つ。 「お部屋はお二階になります」 「はーい」 ようやく七瀬さんの仕事が終わった。 返事をして階段の方へ歩く二人に声をかける。 「ねー、先行っといて」 「おー」 「先歌ってるね〜」 二人は階段を上がって行った。 さて。 俺が苦手なカラオケに来た理由。 七瀬さんの顔をチラッと見る。 目が合う。 逸らされる。 やっぱり。 予想通りの反応に思わず笑みがこぼれた。 「七瀬さん、休憩いつ?」 「え?」 「お話しません?」 七瀬さんは目を見開いた。 「お、俺と?」 「うん」 「え…っと、俺何かしましたでしょうか…」 ぶっと吹き出す。 体育館裏に呼び出してるわけじゃないんだから。 それに、その敬語おかしいよ。 その時、奥から男の人が現れた。 「なに、七瀬知り合い来てんの?」 「あ、はい…」 バイトの先輩だろうか。 先輩は俺と七瀬さんを交互に見た後、口を開いた。 「七瀬、休憩前倒しで行ってきていいよ」 「えっ」 「なんか話あんだろ? 話すんなら、奥の休憩室使っていいから」 なんて物分りのいい先輩なんだ。 「わー、ありがとうございます!」 俺はペコッと頭を下げる。 七瀬さんは振り返って遠慮がちに俺を見た。 「…歌わなくていいんですか?」 「だからぁ、歌わされるんだってば」 くすくす笑いながら、 俺は奥へと入る七瀬さんの後をついていった。

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