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第80話

ギシッとベッドの軋む音がした。 ふと横を見ると、蒼がのそのそと起き上がるのが見える。 もう朝になったのか。 もぞもぞと布団の端を口元まで引き上げた。 洗面所の方に向かって行ったからトイレだろうか。 シャーッと水を流す音が聞こえて あ、顔を洗ってる、と気づく。 もう起きるのか。 めちゃくちゃ朝型だな。 携帯を開くと4時8分、さすがに早すぎる。 蒼が洗面所から帰ってきた。 うろうろと歩き回っている。 寝ぼけてんのか? そのまま薄目を開けて観察をしていると 蒼はポットでお湯を沸かし始めた。 コーヒーか紅茶かを飲むのだろう。 まだ眠いのか、ぼーっとポットの中の水を眺めている。 なんか、蒼の生活を覗き見してるみたいで ドキドキするな、これ。 次は何をするのだろう、と見ていたら おもむろにこちらに顔を向けたので慌てて目を閉じた。 目は、合ってないはず。 起きてるってバレたかな。 ドキドキしながら目を瞑っていると ギシッと音がした瞬間、 近くに人の気配を感じた。 え。 え? 蒼が俺のベッドに乗りあがってきたようだ。 お前のベッドはあっちだぞー。 まだ寝ぼけてんのかー。 必死でテレパシーを送るが伝わるはずもなく。 もしかして、起きてるってバレてるのか? バレてるのに狸寝入りしてるって めちゃくちゃ恥ずかしくないか。 目を瞑っているので蒼が何をしているのか、 何をしようとしているのかさっぱり分からない。 視線を感じるから 顔を見られているんじゃないかと思うけど。 沈黙。 蒼が動く気配はない。 耐えられなくなってきた。 もう、起きてしまおうか。 そう思った時、 さら…と髪の毛を梳くように頭を撫でられた。 突然のことに身体が固まる。 「〜♪…んー、ふ〜んふん〜♪〜…」 微かに蒼の歌う声がした。 俺の頭を撫でながら、鼻歌を歌っている。 動けない。 身体が完全に固まってしまった。 なんだこれ。 何で俺は蒼に頭を撫でられてるんだ。 俺の好きな歌声が上から降ってくる。 ふわっとシャンプーの香りがした。 昨日俺も使った、同じ匂い。 そこで、蒼が顔を近づけてきたのだと分かる。 ダメだ。 もう起きてしまいたい。 今起きたら、蒼はどんな顔をして俺を見てる? 見たい。 触りたい。 近づきたい。 ふと、蒼は歌うのを止めた。 俺から離れ、 机の上にノートを広げ何かを書き始める。 どうやら曲を作るようだ。 俺の頭撫でながら作った曲。 くるっと寝返りを打った。 どうしよう。 泣きそう。 賢明に涙を堪える。 こんなの、無理だろ。 好きにならない方が無理だろ。 azuの歌う世界が好きだ。 その世界に生きてる蒼はもっと好きだ。

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