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エピローグ
岩城の隣で、男娼が眠っている。
色疲れ、という言葉がピタリと当てはまる寝顔だった。
やや薄めのキクの顔立ちは、こうしているとやはり地味だ。
しかし、色ごとの最中には目元を上気させて……中々の色気を纏わせる。
喘ぎ声も、悪くなかった。
それに……無駄な肉のない薄い体は、女とはまったく違う生き物だということを主張していて……岩城にはちょうど良かった。
女よりも頑丈で体力があるというところもいい。
抱かれることに慣れた体は岩城の無茶な性交にも、ちゃんと最後まで感じることが出来ていた。
終わりの方はもう、息も絶え絶えではあったけれど……。
岩城自身、己が遅漏だと自覚している。歳を取るにつれて、達しにくくなっているのだ。けれど感度が鈍くなっているわけではない。
キクは……口淫は拙かったが、体の方は熟れていた。後ろの具合もかなりいい。
しかし……。
岩城は苦笑いを浮かべながら、眠っているキクの髪をさらりと梳いた。
こんなに自分本位なセックスをする子は初めてだ、と岩城は思った。
2人で交わっているというのに、キクは、自分の快感を追うことだけに夢中になり、岩城の反応など一顧だにしなかったのである。
目を閉じて、相手の顔も見ずに、腰を振っていたキク。
それはセックスではなく、単なる自慰であった。岩城のペニスは、さしずめ体温のあるバイブだ。
さらさらと癖のない髪を弄りながら、岩城は吐息を落とす。
キクが、あんな性交をするのは、彼氏に捨てられたということが関係しているのだろうか。
彼氏に斡旋された客に抱かれ、金を貰っていたというキク。
キクは阿呆なんどす、と言って笑っていたけれど……つらくなかったわけではないだろう。つらさを、きれいさっぱりと忘れたわけでもないだろう。
男の欲望を受け入れて、快感を追っているときにキクが目を閉じるのは、誰に抱かれているのかを、見たくないからではないか。
彼氏以外の男に抱かれていると、思い知るのが嫌だからではないだろうか……。
それは岩城の勝手な憶測ではあったが、あながち間違いではないように思えた。
いまでこそ、金を対価に男娼として割り切って仕事ができているかもしれないが、昔についた癖は中々抜けるものではない。
ウリをしていた頃に、手ひどく抱かれたこともあっただろう。それ故に彼は、少しの快感でも貪欲に感じようと淫らな体を手に入れ、少しでも気持ちよくなろうと自身の快感だけを追うようになったのだ。
それを殊更憐れだとは思わないけれど……この子は岩城の好奇心を刺激してくる。
抱かれることには慣れていて、自分から乗っかって腰を振るぐらい快感に飢えているくせに、いざ岩城が主導権を握ると、死ぬ死ぬと言って泣いていたキク。
その乱れ方が思いの他可愛くて……もっと気持ちよくしてあげたいと思ってしまった。
これまで岩城の傍には、岩城の財産や外見目当ての女しか居なかった。
しかしキクが欲したのは、岩城のペニスだけだ。
客を満足させることよりも、自分が気持ちよくなるのに夢中になる、どうしようもない男娼。
言葉を飾ることもせず、欲望に忠実なその様は、虚飾だらけの岩城の取り巻きたちにはなかったもので……。
この子を、岩城の好みに仕立てあげるのも、楽しいかもしれない、と。
そんなふうに考える自分に、岩城は苦笑いを漏らした。
悪い大人だ、と、自分をそう評して。
けれど、飽きるまでは新しいこの玩具で遊んでみてもいいだろうと、思った。
この子が目覚めたら、言ってみようか。
次からもきみを指名するよ、と。
そのときキクは、どんな顔を見せてくれるのだろうか。
彼の黒い瞳が真ん丸になるところを想像して……岩城は声を殺して笑いながら……キクの頭を胸に抱き込み、両目を閉じた。
早く朝になればいい、とそんなことを考えて。
眠りに就いた岩城であった。
淫花廓~キクの章~ END
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