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千尋とラブホテルにいってみた
神林トオルは目の前の光景に固まっていた。
目の前の光景とは友人の西島千尋がスヤスヤと眠っているのだ。しかも同じベッドで。
えーと?
西島の寝顔を見ながら考える。
ここ、どこだっけ?
起き上がって周りを見ると自分の部屋でも千尋の部屋でもない。
ダブルベッドに色っぽい色のカーテンや大きな鏡など……どこかで見た事がある。
「マジかよ、ラブホテルじゃん」
そう気づいてしまったものだから西島が服を着ているか確認。
スーツ着たまま爆睡しているし、自分も服を着ていて乱れた様子はない。
どうしたんだっけ?
仕事帰りに千尋と会って、同棲している碧ちゃんの祖父が福岡に来ると言うから会いに行くので帰りが遅いとか言って、じゃあ飯食うか?となって居酒屋行って……酒飲んじゃお?とビール飲んでて……あ、そうかそれから歩いて帰ってる途中で「すげえ、街中にラブホあるぞ」って千尋が酔ったせいもあり珍しくはしゃいでいた。
できたばかりのラブホみたいで「今度碧ちゃん連れてきたら?」と言ったら「中、みたい!」って千尋が言い出したんだと思い出した。
で、そのまま寝ちゃったわけか……。
神林は時計をみた。もうすぐ零時になるところだ。
此上には千尋と飯食うからって連絡は入れてたけれど心配しているよね?
連絡入れようとしてハッと気付く。
ここ、ラブホじゃん?
何か誤解されるかも!!と神林は考え込む。
此上は疑ったりしないけど、千尋をラブホに連れ込んでしまったから怒られるかもと考える。千尋の保護者だから。
その千尋は爆睡中。
スーツがシワになるよなあ……どうしよう?と彼に触れると「んー」と唸り目を開けた。
「千尋、良かった起きたな」
「んー、あつい……」
ゆっくりと起き上がる千尋はぼんやりした顔で上着を脱ぎ始める。
「なに……やってんの?」
「ぬぐ」
「うん、脱いでるね」
千尋は上着を脱ぐと今度はネクタイを外す。
「んー、とれない」
寝ぼけているのかまだ寄っているのかフラフラしながら上手く解けないネクタイに悪戦苦闘していてなんだか可愛い。
「外したいのか?」
「んー、とってえ」
お願いするように神林を見る千尋。
凄く可愛いのだ。碧みたいに可愛い子供みたいな顔。
ちくしょー可愛い!!
神林はネクタイを外してやるとシャツを脱ぎ出す。
「ちょ!千尋、シャツまで脱ぐのか?」
「んー、お風呂入る」
シャツのボタンを半分まで外して、次はベルトを外し、スラックスを脱ごうとする。
「ふ、風呂は帰ってから入ろうな?」
千尋の手を掴み止めさせようとする。
「やだ!はいる!」
神林の手を振りほどこうとして、2人バランス崩してベッドに倒れ込む。
神林が上で千尋がもちろん下。
「おもいいい」
全体重をかけられて千尋が神林の下で暴れる。
「ご、ごめん!」
慌て起き上がって下をみるとまるで千尋を組み敷いている構図。
すると碧と勘違いでもしているのか両手を首に回して抱きついてきた。
「ちょ!千尋!」
慌てて離れようとする神林。
「一緒にねよ?」
耳元で甘えた声。
くそおおお!!千尋おお!!
試されてでもいるのか?それとも碧と間違えているのか……あ、もしかしたら篤さんと間違えているのかな?
酔うと子供っぽくなる千尋。
「千尋、俺は此上さんじゃないぞ?」
と言ってみる。
「うん、トオルじゃん」
トオル……。久しぶりに呼ばれた。
学生時代はトオルと呼んでいた千尋。
社会人になってから神林と呼ぶようになった。会社で名前呼びは流石にダメだろうと苗字呼びになったのだ。
だから新鮮でそして嬉しい。
「なんだよ、俺って知ってて甘えてんのか?」
「だって、優しいじゃん……甘えさせてくれるし」
千尋は神林の顔をじっーと見つめて可愛い事を言う。
くそおおお!!ちくしょー!!可愛いんだよおおお!
神林は悶えたい気持ちを押さえる。
「千尋」
名前を呼んでみた。でも、返事はない。
良くみるとまた熟睡している彼。
「ちくしょう」
なんでだかそんな言葉が出てしまった。
甘えさせてくれるとか……なんだよおお!
顔が熱くなる。
千尋を寝かせると同時にスマホの着信音。表示は此上。
電話に出ると遅いから心配しているとの事。
事情を話して迎えに来てもらう事にした。
千尋を抱えて流石にラブホを出るわけにもいかない。
◆◆◆
此上がラブホに迎えに来てくれて、千尋を抱えて無事に彼の部屋に送り届ける事ができた。
「ちひろさん!」
碧が帰っていたようで玄関を開けてくれた。
「ごめんね、潰れるまで飲ませて」
神林は碧に謝る。
「いいえ、こちらこそ、ちひろさんがお世話になりました」
ぺこりと頭を下げる碧につい、笑がこぼれる。
「千尋より碧ちゃんがしっかりしてるな」
此上は笑いながら寝室に千尋を運ぶ。
「あとは僕がやっておきます。もう遅いですから」
「うん、またね碧ちゃん」
此上は碧の頭を撫でると千尋の部屋を出た。
◆◆◆
「で?なんで顔が赤いのかなあ?トオルくんは千尋に悩殺されたんじゃない?あいつ、酔うと無意識に誘うから」
此上の言葉にドキッとした。
誘う?
確かに色ぽかった。
「他所の野郎とは飲ませられないな」
「そうですね」
「で?迫られた?」
「せ、迫られてません!!」
「ほんとかなあ?」
「本当にです!甘えてきただけです」
と言ってしまい、しまった!!と思った。
「へえ……」
そのへえがいつもの此上の声のトーンと違ってドキッとした。
「篤さん?」
「詳しくはベッドで聞こうかな?」
ニヤリと笑う此上が怖い。
ベッドってなんで?とちょっと怖くなる神林だった。
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