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キスしないと出れない部屋に神林と西島を閉じ込めてみた

まるでホテルの一室みたいだった。 西島が目を開けると真っ白な天井が視界に入り、ここどこ?と考えるまでに数秒かかった。 「あ、起きた」 近くで知ってる声がするので、起き上がった。 「神林……」 声の主は神林。 「ここどこだ?」 西島はどうやらベッドに寝ていたようだった。 「分からない……目を覚ますとこの部屋にいたから」 「どうしたんだっけ?」 ここがどこで、どうしてここにいるのかとか考えが追いついてくれない。 部屋には今、西島が寝ているベッドと神林が座っているソファーとテレビとテーブルがあるだけ。 他に家具は無くて……違和感がある。違和感…… 西島は少し考えて気づく。 窓がない。 ドアはあるけれど、窓がない。 ベッドから降りてドアノブを回してみる。 ガチャガチャと音がなる。 「開かないよ……なんか鍵がかかってるみたい」 「は?」 西島は振り返り神林をみる。 「千尋が起きる前に試してみたから」 「開かないって……はあ?開かない?なんで?」 思わず声が大きくなる西島。 「知らないよ、俺だって千尋が起きる少し前に起きたんだから状況把握出来てない」 「と、取り敢えず電話」 西島は上着のポケットの中に手を入れてスマホを取り出す。 「かからないよ、なんか、回線混みあってますって」 「はあ?じゃあ、どーすんだよ?」 西島はドアノブをガチャガチャと回す。壊れてくれないかな?って願いを込めて力を入れる。 ブーンっ…… 部屋に機械音が聞こえた。 「あ、」 神林が短い声をあげる。 「テレビついた」 その声に西島は振り返る。確かにテレビがついた。 でも、白い画面。 「なに?」 西島は神林の側に行き、2人でテレビを見つめる。 すると、文字が浮き出てきた。 「はあああ?」 それは2人同時に発せられた。 浮かんで来た文字に2人同時に声を上げてしまったのだ。 その文字は…… 「この部屋はキスしないと出れない部屋です。出たかったらキスしてください」 だった。 「ふざけんな!!!」 西島はテレビをパシンと殴り言葉を投げつける。 「キス……しないと出れない部屋……なんか、都市伝説であったような?」 神林が考えるような仕草を見せてそう言った。 「はあ?何だそれ?」 「最近、ネットとかで話題だった……確か斎藤くんもそんな話してたなあ」 「斉藤?アイツ、くだらん噂話好きだからな」 「キスしなきゃ出れない部屋とセックスしないと出れない部屋があるって」 「はあ?」 西島は呆れてものが言えない……そんな表情をしている。 「都市伝説なんだろ?」 西島は神林をみる。 「実際あるみたいだね、現に俺達閉じ込められている」 「んな、馬鹿な!!!」 西島はまた、ドアまで走り、ドアノブをガチャガチャといわせるがビクともしない。 キスしないと出れない部屋ってなんだよ?意味わかんない!! 「こら、誰か居るんだろあけろ!!!」 今度はドアを叩いて大声を出す。 「千尋、無理だって」 神林が側に来てドアを叩く西島の手を掴む。 「誰かいるかも知れないだろ?」 「そんな力いっぱい叩くと怪我するだろ」 「構わないよ!碧が心配してる!!」 さっき、スマホを取り出した時、時間が自然に目に入り、夕方だった。 いつもなら碧とスーパーに買い物をしに行っている時間帯。 神林の手を振り払い力いっぱい叩く。 「だから、怪我するって!」 神林は西島の両手を掴むと後ろ手に回す。 「いた!!!お前が俺に怪我させる気だろ?」 いきなり後ろに手を回され少し痛みを感じた。 「とにかく落ち着こう」 神林は西島を無理矢理ソファーへと座らせた。 「なんで、お前はそんな冷静なんだよ?」 「千尋が冷静じゃないから」 「は?」 「2人でパニックになっても仕方ないだろ?」 「そうだけど……」 「この部屋が都市伝説のあの部屋ならキスしたら出れるんじゃないのか?」 神林の言葉に西島は固まる。 キスしないと出れないなら、キスしたら出れる? 理屈は通る…… キス……キス…… ええ!!キス!!! 西島は驚きて神林をみる。 「だって、キスしないと出れないんだろ?」 なんで自分は冷静なのだろう?と神林は自分でも不思議だった。 西島より先に目を覚まし、彼みたいにドアノブ回したりスマホ弄ったりしたけれど、どうにもならなかった。 篤さん心配しているだろうな?って無性に会いたくなった。 そしたら西島が目を覚して……。 彼も碧に会いたがっている。じゃあ、キスするしかなくない?って冷静に考えてしまった。 神林は西島の肩を掴む。 「ま、まじで……キス……するのか?」 目の前の西島はいつもの西島じゃない気がした。結構強気で……いや、かなり強気で顔に合わないくらいで。 綺麗な顔しているくせにいつも、不機嫌そうな顔をしている。 そんな西島がいまは……驚くというか戸惑うというか……なんだろ、凄く可愛い。 「か、神林……俺、あの……碧がいるし……キスとか……」 しどろもどろで……後ろへ下がろうとしている。 それを阻止すべく両肩を掴む。 「神林!!ダメだってば!」 顔が赤い西島。凄い可愛い……嫌がっている姿がもう……凄くそそる。 「碧ちゃんに会いたいなら覚悟決めろ!」 つい、言ってしまった。 俺……西島にキスするつもりなのか? キス……くらい……ファーストキスじゃないし……子供じゃないし、俺達は大人だ。 それにセックスするわけじゃない。 は……セックス?千尋と? うわあ!!それはダメだ!それは完璧に浮気になる。篤さんに顔が合わせられない。 キスは浮気じゃない! 「千尋、キスは浮気じゃない」 その言葉で西島は「キスしたら出れるのか?」と神林を見つめる。 「たぶん」 この部屋からでる為ならキスするしかないのか?碧に会う為には神林と…… そうだよ、キスくらい。 浮気じゃないし、キスくらいどうって事ない!! 「わかった!」 自分に言い聞かせた西島は神林に顔を近付ける。 顔が近付いてきた神林は目の前の綺麗な顔に戸惑った。 キスするの?まじで? 神林は西島の顔が近付いてきてようやく自分が凄い事を言ったのだと気付く。 「キスするのか!」 思わず叫んでしまった。 「お前がキスしないとでれないからキスしようって言ったんだろーが!」 西島は神林の胸ぐらを掴み引き寄せる。 「ちょ、まて!!冷静になれ!」 「なってるよ!覚悟決めろって言ったのはお前だ!俺はキスして部屋をでる!碧が心配してる!お前だって恋人心配してるぞ!」 恋人…… 篤さん…… そうだ!篤さん心配してる。 そうだよ、キスくらいなんともない…… そう思ってみるが西島が相手だ。 初恋の相手だ……ずっと好きだった相手…… 「うわあ!!もう、なんで千尋なんだよ!」 これが佐々木とか斉藤だったら直ぐにキスしてでるのに。 佐々木と斉藤とのキスは犬猫とキスしてのと同じだし意識していない。 意識していない相手とキスは簡単に出来る。 そんな事を考えていると……ああ、そうか、自分は西島を意識いているんだと思った。 「キスするぞ!」 そう言って近付いてくる顔。 神林は思わず顔を背ける。 「てめー!!」 西島は神林の顔を固定するのに両手で掴む。 「キスしないと出れないんだぞ?それにこれは浮気じゃないって言ったのはお前だ!これは浮気じゃない!」 「ち、千尋……」 見つめてくる西島の顔がカッコイイ。 「覚悟決めろ!」 そう言う西島の顔は本当にカッコイイ…… 反則だよなあ…… 「や、優しくしてください」 思わずそんな恥ずかしい事を言ってしまった後、目を閉じる神林。 「神林……」 お前、何言ってんの?と困惑する西島はそのまま顔を近づける。 ちゅっ、 唇に何か触れた…… そして、甘い香と味を神林は感じた。 千尋のキスって甘いの? 目を閉じていたから分からなかった。 カチッと何かの音がした。 「あいた!!」 西島の叫ぶ声がして、腕を引っ張られた。 「急いで出るぞ!」 西島は神林の手を掴んでドアへ急いだ。 ドアは開いた。 外へ出てその場に2人座り込んだ。 出れた……のか? 神林は周りを見る。 公園みたいな場所。一応、外のようで出られたのだと安心した。 そして、西島とキスしたのを思い出す。 ああ!!千尋とキスした!! 甘い味がした……チョコみたいな。 「神林、帰るぞ!」 西島は先に歩き出す。 「千尋……なんか甘い味がする」 リアルに甘い味を神林は感じていた。 チョコのような?えっ?チョコ? 「これ」 西島は神林の目の前に包み紙を差し出す。 「えっ?チロル……チョコ?」 「碧が朝、お腹空いたら食べてくださいって渡してきた」 確かに包み紙はチロルチョコだ。 「キスする前に包み紙を間に挟んだんだよ」 「あ……」 「一応、これもキスだろ?」 包み紙越しのキス…… まあ、確かにキスだ…… うん、キスだよな。 って!なんで、俺、ガッカリしてんだ?? 包み紙越しだと分かった瞬間に神林はすこしガッカリしてしまったのだ。 キスしたと思っていたから。 ガッカリなんてしてない!! 俺の心も身体も篤さんのモノ…… 断じてガッカリとかしてないいい!!! 神林は1人悶える。 「何やってんだ?また、閉じ込められる前に逃げるぞ」 西島に腕を掴まれ、歩き出す。 神林の心の中は荒れていた。 一瞬でもキスしたいとか、ときめいた自分とガッカリした自分と此上が好きなのに他の男にこんな感情を抱いてまった事!! 俺の馬鹿あああ!!! 煩悩を振り払うように頭を振りまくる。 クラクラときてしまうが、心で違うんだあ!!と叫び続けた。 そして、部屋に戻ると、 「篤さん、俺にご奉仕させてください」 と頭を下げる神林だった。 せめてもの罪滅ぼし。 そして西島は碧が待つ部屋に戻り「チョコありがとう」と碧を抱きしめた。 「どーしたんですか?チョコそんなに美味しかったですか?まだ、ありますよ?」 碧はチョコをポケットから取り出す。 「口移してたべさせて」 「ち、ちひろさん」 真っ赤になる碧。 「だめ?」 「だめじゃないです」 碧はチョコの包み紙をあけ、口に含むと西島へ口移しでチョコを食べさせた。 ほんと……チョコの包装紙を捨てなくて良かったと西島は思った。 碧がくれたものだから何か捨てづらかっただけなんだけど、役に立ったな…… 口移しで貰ったチョコを食べながら碧にそのままキスをする西島だった。

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