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キスしないと出れない部屋に此上と碧を閉じ込めてみた

あおい!!! 誰かが名前を呼んでいる。 ちひろさん? 碧はその声に耳を澄ませる。 「碧ちゃん!」 近くで声がした。でも、西島の声ではない。 目をゆっくりと開けてみた。 「碧ちゃん、大丈夫?」 「……この……うえさん?」 目を開けた視界に此上の顔が自分を見下ろしている。 「良かった……」 ホッとしたような此上の表情と声。 碧はゆっくりと起き上がった。 キョロキョロと周りを見渡す。 テレビとソファーとテーブルと…… 白い壁。 西島と一緒に住んでいる部屋も白い壁だが広さも雰囲気も置いてある家具も見た事ない。 「ここ……どこですか?」 此上に視線を向けた。 「……分からないんだ。俺も目を覚ましたら、この部屋で……碧ちゃんが横で寝てた」 そう!此上が目を覚ますと横で碧がスヤスヤと眠っていた。 知らない部屋で碧と2人。 一瞬、間違いでも起こしたか?と考えてしまった此上。 互いに服は着ていたから何もやってはいないだろうけれど……もし、第3者がいて何かされたか?とも考えたが碧は大丈夫そうに見えるし、自分も変な感じはしない。 「いま、何時ですか?」 碧はハッ!と思い出したように聞く。 西島とスーパーに行こうと待っていた…… そうだ、確かに駅で待ち合わせしていた。 「7時だよ」 「えっ?7時」 西島と待ち合わせしたのは6時……1時間も西島を待たせている事になる。 「か、帰らなきゃ、ちひろさんが待ってます」 碧はベッドを降りる。 「ダメだよ、出られない」 此上は碧の手を掴む。 「えっ?出られない?どうしてですか?」 「ドアに鍵がかかっていてビクともしない!体当たりもしたし、椅子使ってドア壊そうと頑張ったけれど無理だった……この部屋、窓もないし」 此上は碧が目を覚ますまで、色々と脱出を試みていたようだった。 「閉じ込められたって事ですか?電話は?」 碧は上着のポケットを探りスマホを取り出す。 「繋がらない」 此上の言う通り、碧が西島に電話しても繋がらないし、メールもLINEもダメだった。 どうしよう…… 碧は泣きそうになる。 ちひろさんに会えなくなるの? そんなの嫌!!! 俯き泣きそうな碧に気づき、此上が碧に触れようとした瞬間。 カチッ…… そんな機械音が聞こえた。 「テレビ……つきました……」 碧の視線の先にあるテレビの画面が明るくなったのだ。 電源押していないのに……と碧は少し怖くなる。 此上と見つめる画面には文字が浮かびあがった。 キスしないとこの部屋からは出れません 「は?」 此上と碧の声が揃う。 「どーいう事ですか?」 碧はテレビの側に近付く。 リモコンは見当たらない。 操作はどこでするのだろう?とテレビの後ろを覗き込む。 「碧ちゃん離れて」 此上は碧をテレビから離し、自分がテレビを確かめた。 もし、何か仕掛けでもしてあったら碧が怪我をしてしまう。 でも、テレビの裏にはスイッチさえ見当たらない。 なんじゃこりゃ!!!! そう思うしかない。 「キスしないと出れない部屋……」 碧は呟き、何か考えるような仕草をした後に「あ!!これ、僕、知ってます!都市伝説でキスしないと出れない部屋があるって星夜くんが話してました!本当にあったんだ!」と思い出した。 いつだったか、昼休みに斉藤が「碧、キスしないと出れない部屋の話知ってる?あと、セックスしないと出れない部屋もあるんだって!」と話していた。 「なんだソレ……」 此上はそんな馬鹿な話があるものか……と思ったが現に碧と2人閉じ込められている。 「僕達出れないんですか?」 碧は不安そうだ。 「なんか方法あるはず……なんだろうけど……キスしないと出れない……」 まさか、本当にキスしないと出れないのか?じゃあ、逆に言えばキスしたら出れる……という事になる。 キス?この子と? 此上は碧をみる。 子供みたいな可愛い顔。しかも未成年。 幼い時の千尋とだぶる。 キス……だけでも犯罪臭がする!!! こんな子供に…… 恋人の千尋はまだ、いい、アイツは童顔だし、大学生くらいに見えるし、俺なんてオッサンだぞ?下手すりゃこの子のお父さんでもおかしくない!! そんな子とキス?まじで? だめだあ!!!犯罪だ!犯罪!! それよりも千尋にバレたら殺される…… 『こーのーうーえーええええ!』 とタタリ神のように自分に襲いかかる西島を想像した。 力や喧嘩なら自分が勝てる。でも、碧が絡むときっと自分は負ける。 「此上さん……キスしたら出れるんですよね……多分……」 碧は此上を見つめる。 凄く大きな瞳が自分を見つめている。 耐えきれずに少し、視線をそらす。 「そうだとしても……できないだろ?」 碧は純粋そうで、きっと、西島意外の男とキスとかしようものなら自殺しかねない。 ちひろさんごめんなさい……と泣く碧が想像出来てしまう。 「でないと、ちひろさんに会えないんですよね……諭吉とも」 「……いや、きっと、何か方法あるはずだよ、それを考えよう」 「分かりました!キスしましょう!」 「うん、そうだね…………って、えっ?ええ??」 碧の言葉に此上はうっかり返事を返し、そして驚く。 いま、なんて言ったこの子は? 「碧ちゃん、わんもわぷりーず……」 きっと、自分は今、テンパッている。 「キスしましょう!それで出れるでしょ?」 「あああ、碧ちゃん自分で何言ってるか分かってる?」 再度確認。 「此上さんだって神林先生と会えないの嫌でしょ?僕はちひろさんと諭吉に会えないのは嫌です!!」 「そそそ、そうだけど……キス……するんだよ?」 この子は気でも狂ったのかと一瞬、思ってしまった。 「分かってます!此上さんは神林先生とじゃないから嫌でしょうけど」 「ちがう!それは俺の方!!俺は千尋じゃない!いいのか?千尋意外の男と……」 「……構いません、ちひろさんに会えない方が辛いですもん」 碧は此上を見つめる。 すごく真剣な瞳。 「此上さん、覚悟決めてください!」 碧は真っ直ぐな瞳で此上を見つめ、意志が固いようだった。 こんな子供の方がしっかりしてるなんて…… 此上は碧の強さに感動した。 千尋が好きになるのがわかる。 この子は迷わないんだ。 凄いな……これなら千尋を支えられる。 「此上さん、我慢してくださいね」 「だから、それは……おれの」 言葉……と言う前にチュッ、碧の唇が触れた。 その瞬間、カチッと音が聞こえた。 「此上さん、ドア開きましたよ」 碧は嬉しそうに此上をみる。 「そうみたいだな」 ドアが閉まらないうちに、此上は碧の手を掴み外へ出た。 良かった…… 部屋から出られた…… 此上はホッとして碧をみる。 「出れましたね」 ふふ、と笑う碧が可愛い。 「うん、……キス……ってあれでも良かったんだな」 「えっ?」 「ほっぺた」 「えっ?ほっぺた以外にあるんですか?」 碧はキョトンとしている。 そう、碧がキスしたのは此上の頬。 やわらかい唇が触れた。 「いや、ないよ」 此上は碧の頭を撫でる。 良かった……千尋には殺されない。 キスは唇だと思っていた自分が恥ずかしい……なんて、此上は思う。 「帰りましょう!」 碧は可愛く笑う。 「送っていくよ」 此上は碧の頭を撫でた。 ほんと、この子の度胸と純粋さには負ける!!! 此上は碧と歩き出す。

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